原発は攻撃対象になるから危険か
石破首相は、総裁選中、原発は他国からの攻撃対象になるから危険だとの考えを述べた。確かに、ウクライナ戦争やイラン・イスラエル紛争では原発への攻撃の危険性が懸念されている。しかし、だからと言って、日本などのような国において原発をやめれば電力不足、電気料金の高騰により、国民生活と産業活動が阻害され、国力衰退を招くことは必然だ。
むしろ原発拡大により電力供給を安定させ、国力(防衛力を含む)を増強することが外国からの攻撃を抑止するだろう。かつて、故李登輝氏(元台湾総統)は、民進党の脱原発政策が台湾の防衛力を弱体化し危険を招くと警告したが、防衛問題に詳しい石破首相はこのことを十分ご存じのはず。原発を外国の攻撃から有効に守る方策は別途検討されるべきだ。
中露が牛耳る世界の原発市場
福島事故後日本が世界の原発市場から脱落した結果、現在中国とロシアが自国製の原子炉を売りまくっている。両国の原子炉が格段に安価なのが最大の原因であるが、それだけではない。
「核兵器国」である両国は核不拡散条約(NPT)上の国際査察(保障措置)の義務を免れているが、原発輸出についても、輸入国に対し厳格な不拡散条件を課していない場合が多い。その結果として、原発を新たに導入しようとする開発途上国で核拡散が起こる危険性が高まるとの指摘もある。
かつて福島事故以前、日本は被爆国として原子力の平和利用に徹し、「日の丸原発」の輸出に際しても一定の役割を果たしてきた。私事ながら筆者は、現役時代に初代の外務省原子力課長として、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国などでの原子力平和利用活動を担保するための「アジアトム」(アジア地域原子力協力体)設立構想を各国に呼びかけ、設立条約案を起草し、その実現に向けて奔走した経験がある(『日本の核・アジアの核』1997年、朝日新聞出版)。
その過程で、フィリピン、インドネシア、ベトナムなどで原発導入計画が進められた。特にベトナムとは、実際に軽水炉2基の輸出が合意され、日越原子力協力協定も締結された。ところが、直後に福島事故が突発し、すべてが頓挫、長年の努力が水泡に帰してしまった。
最近になって、グローバルな脱炭素化の流れの中で、いくつかのアジア諸国で原発導入計画が復活しつつあり、その結果、原発技術先進国は激しい売り込み競争を繰り広げているが、国内の原発企業がすっかり弱体化してしまった日本は、蚊帳の外に置かれたまま。今や世界の原発市場は中露などの独擅場と言ってもよい状況であるが、こうした国際的な動きについて日本は全く傍観、無関心でいてよいのか。
石破内閣には、国内の原発政策や事故処理だけでなく、そうした国際政治・安全保障問題にもできるだけ目を向けてもらいたい。