図書館の現状と課題
書店と同様に〝リアルな本〟が読める図書館の状況についても振り返ってみたい。図書館は23年に3310館あり、30年前の1.6倍になった。蔵書冊数は約4億6699万冊で、この30年で2.4倍。図書館数は2000年代までは増加基調にあったが、この15年程は落ち着いている。
新刊本中心の品揃えの書店に対し、図書館の蔵書は新刊本に限らない。また、図書館は買うほどではないが読んでみたいというニーズに応えている。
街の図書館の今後のあり方について再考を促しそうな環境変化が「国立国会図書館デジタルコレクション」の登場である。22年5月に始まった「個人向けデジタル化資料送信サービス」(個人送信サービス)によって、絶版のものを中心に図書、雑誌、博士論文の約205万点が自宅のPCで閲覧できるようになった。本を探すにしても、タイトルだけでなく全文検索の対象になっているものが多い。
論文の参考文献欄に列挙されている本を探したいとする。デジタルコレクションに存在し、著作権切れ、あるいは個人送信サービス対象であれば自宅PCで閲覧できる。対象外であっても、全国7400以上の図書館の蔵書を横断検索できるサイト「カーリル」で自宅が属する都道府県内の図書館を検索すれば目的の本にたどり着く。
自宅に居ながらにして目当ての本を閲覧できる国立国会図書館の個人送信サービスによって、近隣の図書館で本を探す機会が減った。図書館がカバーする範囲は、文献調査から教養、学習そしてレクリエーションまで幅広いが、文献調査に関しては国立国会図書館のウェイトが高くなったのが実感だ。専門分野に限れば街の図書館のレファレンスサービスの機能は国立国会図書館のオンラインサービスでカバーできるようになった。
相対的に、街の図書館の役割において教養、レクリエーションのウェイトが高まってくる。例えば、子ども向けの「読み聞かせ」、大人向けなら一般書や雑誌閲覧の充実が現在に増して求められよう。
インターネット時代の書店の生き残り策
今後、ネット通販やスマホ・タブレット操作に抵抗のない50歳代が高齢層に繰り上がるに従って、オンライン書店や電子書籍の普及率はますます高まっていくだろう。リアル書店はどのような生き残り策を講じればよいだろうか。
リアル書店の強みは、新たな本との偶然の出会いである。「目的買い」の対義語は「衝動買い」だが、この両極端の間にも購買動機がある。
目的買いこそオンライン書店に分があるが、衝動買いはもちろん、衝動買いと目的買いの中間の購買動機にもリアル書店の強みがある。オンライン書店は既知の興味関心を深めてくれるが、リアル書店は未知の興味関心を発見し、拡大してくれる。こうした強みを活かし、近年は、テーマ別の書棚構成をこしらえるなど本との出会いを重視した書店が見られる。
本に囲まれた空間でゆったりとした時間を過ごすのもリアル書店の楽しみだ。カフェを併設したり、ソファを置いたりと立ち読み(正確には座り読み)を促す、いわば滞在型の書店は大型書店を中心に90年代頃からあった。これも、オンライン書店にリアル書店が対抗する作戦のひとつである。
こうしたリアルの強みを活かした書店の先端事例といえば、22年9月に福井県敦賀市のJR敦賀駅前に開業した公設民営書店の「ちえなみき」がある。「新たな学び及び価値を創造するとともに、くつろぎ及び憩いの場」をコンセプトとする敦賀市の「知育・啓発施設」だ。新刊だけでなく絶版本や洋書、古書も含む3万冊超を、本の目利きのプロである丸善雄松堂と編集工学研究所が「文脈棚」と呼ばれる本のテーマや内容に沿って並べており、新たな書籍との出会いを創出している。
ただ、オンライン書店にはない強みを活かしたリアル書店の集客が増えても、購入の段になってオンライン書店、電子書籍を選択されてはたまらない。集客をこぼさずいかに売上につなげるか、リアル書店の強みにフリーライドさせないことだ。