2013年末に、14年のレアメタルの年間契約交渉のために欧州を回った。EU圏は、あいも変わらず景気が低迷したままであった。結局、不況のために契約交渉は持ち越しになった。だが、せっかくなので同期の友人の紹介で土日を利用して南イタリアに足を延ばすことにした。
行った先は、靴の形をしたイタリア半島のアキレス腱にあたる部分にある、アドリア海に近いアルベロベッロである。ここにはトゥルッリの教会として有名な、サンタントニオ(Sant'Antonio)教会がある。トゥルッリとは、お伽話に出てくるようなトンガリ屋根の住居で、その家並みが続いている奇観は、世界遺産にもなっている。南イタリアの生活は農業中心で、オリーブやぶどうの栽培と酪農で生計を立てている豊かな土地柄である。
観光ガイドをお願いしたのは、友人の知り合いで、アルベロベッロ近郊のルティリアーノに住んでいる佳子ソリーノさん。イタリア人男性と結婚した佳子さんは、東京の三鷹生まれだ。イタリア観光をしているときに、ハンサムなイタリア人と出会って結ばれた。彼女のご主人(銀行員らしい)とお義父さん(金融関係らしい)が一緒に運転手も兼ね、丸2日付き合ってくれた。
観光ガイドというよりも、友達感覚で接してくれたので、このあたりの生活がよく見えた。実際に、友達もたくさん紹介してくれて楽しいイタリアの生活に触れることができた。そうしているうちに、誰一人として仕事をしている雰囲気がないことに気が付いた。佳子さんによると、失業率はなんと7割というから驚いた。祖先から引き継いだ農地があったり、数百年も続く邸宅に住んでいたりするのであくせく働く必要もなく、贅沢さえ望まなければ素朴で素晴らしい自然に恵まれた生活ができるのだろう。
ただ、南イタリアの生活も最近では先進・北部欧州のライフスタイルに影響されて多消費化が進んでいる。南部欧州の国々が債務超過を余儀なくされている遠因はこんな所にあるのかもしれない。欧州経済の最大の懸案は、このような経済格差である。