存在感を見せ続けたい国民民主
1つは、冷静に考えてみれば国民民主党にはフル連立を組めないテクニカルな理由があるからだ。どういうことかというと、今回総選挙が終わったということは、残り9カ月となった次回の参院選へ向けて政局の号砲が鳴ったことを意味するからだ。
国民民主党にとっては、この時点でフルの連立を組むというのは公党としては自殺行為になる。例えば自民党は、一気に減った党勢を補うために、いわゆる「裏金議員」とされる保守系無所属議員とは、比較的早期に統一会派を組むとしている。フルの連立を行えば、この統一会派を認めざるを得なくなる。さらにフルの連立のためには政策をほぼ完全に一致させることが必要だ。
そうなれば、大昔に新自由クラブや自由党がたどった道、つまりフル連立を組むことで与党に埋没して最後は吸収される道しか残らない。仮に議員たちがプロ集団であれば、個々の議員は与党に吸収されても各選挙区で勝ち抜いていけるであろう。けれども、国民民主党はまだ政党として若く、議員一人ひとりの経験値は少ない。そんな中で、25年7月の参院選で存在感を見せるには党の独自性を維持する必要がある。
少数与党で生まれる議論
2点目は、仮にフルの連立で当面の過半数を確保しない場合でも、今回の衆議院の議席配分においてはリアリズムの政党が圧倒的ということがある。仮に、安全保障や経済政策で、全く異なる立場の政党が拮抗しつつ、誰も過半数を取れないといった場合は、確かに日本の政治は不安定になるであろう。
けれども、自公に国民民主、維新の会、そして野田佳彦氏率いる立憲民主、ここまでのグループに関しては、多くの政策において差があるといっても、是々非々で合意が可能な範囲である。仮に少数内閣が成立してしまい、個々の政策においては、その都度過半数の合意を取り付ける交渉が必要となっても、非現実的なイデオロギー論争に終始することは少なそうだ。
ということは、これまでは自民党の党内組織や自公の党首会談で決まっていた政策が、もっと多様な政党が参加する中でオープンに議論される可能性が出てきた。その一方で、現在の参院の勢力分野としては自公が過半数を持っているという「ねじれ」の問題もある。だが、参院の多数を握っているとはいえ、衆院では少数与党になるということは、野党の意見を聞かねば政策は進まない。
議院内閣制を採用した国としては、かなり珍しいケースとなるが、この際、少数与党という体制を実験的に進めてはどうかと思う。例えば「103万円の壁」にしても、もちろん決して小さくない財源は必要だ。その場合に、投資に見合う消費活性化、少子化の好転、現役世代の活力向上による生産性向上など、リターンが取れるかどうかは、ファクトだけでなく政治思想や経済思想がなくては判断ができない。また世論を説得するコミュニケーション能力も必要だ。