表面上蜜月に見えて悪化しかかっていた米印関係
一見すると、バイデン大統領の下で、米印関係は、何もかもうまくいっているように見えた。インドが求めていた戦闘機のエンジンの技術供与なども含め、防衛協力は明らかに進展しつつあり、経済面でも進展がみられていたからだ。
アメリカに逃げたインドのシーク教徒過激派指導者の暗殺未遂事案についても、外交官の国外追放合戦になっているインドとカナダとは違い、米印間では大きな問題になることなく、静かな交渉が行われているようにみえる。米印関係は安定して進展している。
さらに、中東情勢をみれば、米印両国はともにイスラエル支持の姿勢でまとまっている。主要7カ国(G7)でも日・米・豪・印4カ国の枠組みQUAD(クアッド)でも、日本を除いてイスラエル支持だから、それが米印両国関係を促進することはあっても、問題になることはない。今や、多くの外国人労働者がイスラエルから逃げ出す中、インド人は積極的にイスラエルへ向かっており、イスラエルもインドへの武器の納入を滞りなく行うなど、両国関係は安定的に推移している状態だ。
だから、これらの状態から見れば、本来、バイデン政権は、インドにとっていい政権のはずである。しかし、インドではあまり人気がない。なぜか。
「弱い」と思われたバイデン政権
インドでの議論を聞いていると、インドでは、バイデン政権の評価が低い。それは、まず、ロシアのウクライナ侵略を受けて、米印間でロシアに対する立場の違いが出たこと。そして、バイデン政権が、安全保障に弱いにもかかわらず、お小言だけ多い政権だとみられていたことに起因するものとみられる。
バイデン政権が「弱い」というイメージは、アフガニスタンから撤退する際、総崩れの様相を示してしまったことが、始まりであった。それはロシアのウクライナ侵略につながったが、その際も、バイデン氏は、ロシアが侵略してもウクライナのために戦わないことを明確に表明し、むしろロシアの侵略を黙認するかのようにすら見えた。
その後、ウクライナが反転攻勢に出る際も、射程の長い武器や戦闘機の供与を行わなかったから、ウクライナは領土を奪還できなかった。そして、中東では、イスラエルに「怒りに身を任せてはならない」などと軍事作戦の制限ばかり要求しているが、イスラエルに無視され続けているように見える状態が続いた。こういった姿勢は、アメリアが影響力を失っている印象を強め、「弱い」というイメージを強めたのである。
それにもかかわらず、バイデン政権は、お小言だけは多かった。中国やロシアに対する対決を、民主主義対権威主義の対決として、イデオロギーを重視した。そして、民主主義国としての成績評価を行い、インドのモディ政権が民主主義国としてのルールを守っていない、まるで権威主義国であるかのような態度をとった。
モディ首相が訪米した際には、モディ首相が好まない記者会見を要求し、その場では、インドの民主主義の関して厳しい質問が出ることになった。アメリカは、以前から、記者会見を利用して間接的にメッセージを送るやり方を好み、中国の指導者に対しても、記者会見の際に、活動家がプラカードを掲げたりした事例がある。同じ手法をインドに適応した可能性がある。
実際には、2024年にインドで行われた選挙は、与党が議席を減らしたが、インドが民主主義国としてきちんとした選挙行ったことを示している。問題があるとしても、インドを権威主義国として非難するようなバイデン政権とその支持者の姿勢は行き過ぎで、インドでは反感を買っていたのである。