フィアンセで男子生徒の樹と、女子生徒の樹は、同級生の嫌がらせともいえる投票で、ともに図書委員になる。男子生徒の樹は委員としての仕事をほとんどしないで、誰も借りそうもない本の背表紙の袋に入っている貸出カードに「藤井樹」の名前を書くいたずらを始める。
ペンフレンドになった神戸の樹から、小樽のポラロイドカメラが送らてくる。神戸の博子はフィアンセのことをもっと知りたいと、中学校のグランドなどを撮影して欲しいというのである。学校の図書室を訪れると、本の整理中の図書委員の女子生徒たちから「本の貸出カードから『藤井樹』の書いたものを何枚探し出すかゲームをしている」と、知らされる。
図書委員の女子生徒たちがその後、小樽の樹の自宅を訪れて笑いあいながら、一冊の本を彼女に差し出す。それは、樹が転校する前に「図書館に返しておいてくれ」と、樹に預けたものだった。プルーストの『失われた時を求めて』である。
貸出カードを裏返すと、そこには博子の横顔のスケッチがあった。樹の初恋の相手は同性同名の女性徒・樹だったのである。
神戸の博子は、求婚されているガラス工芸家の秋葉(豊川さん)とともに、フィアンセの樹が遭難した山を臨む山小屋までやってくる。早朝の山に向かって「お元気ですか?わたしは元気です!」と、博子の声はこだまとなって雪原をわたってくる。
映像史に刻まれるべき演技
中山美穂さんは、岩井俊二監督によって起伏に富んだ感情表現にたけた、美貌の女優に羽化したのである。若すぎた死を迎えた女優は『Love Letter』によって神格化あるいは、平岡正明氏の著作『山口百恵は菩薩である』(講談社)の言葉を借りるならば、菩薩となったのである。それは夏目雅子の急死や山口百恵の早すぎる引退とともに、日本の映像史に刻まれる。
アイドル映画『ビー・バップ・ハイスクール 高校与太郎哀歌』(86年、那須博之監督)などに登場する10歳代の中山美穂さんと、数々のヒットナンバーもまた、同時代を生きた世代にとってはこれからも宝石となるだろう。