“遅れてきた美貌の女優”である中山美穂さんは、映画全盛時代なら、岸恵子さんや岡田茉莉子さん、香川京子さんらに匹敵する。若い読者にはわかりにくい。アイドル時代から生まれた女優なら、薬師丸ひろ子さんや小泉今日子さんだろうか。しかも、時代は流れている。「美貌」から「個性」が映像界では重視されるようになった。
世界でも惜しまれる訃報
中山美穂さんの女優としての真価はこれから十分に発揮されていくだろうと、筆者は考えていた。『死刑にいたる病』(2022年、白石和彌監督)での演技である。
連続殺人犯役のパン屋の阿部サダオさんが、店によく立ち寄っていた大学生・水上恒司さんに対して、「1件だけは冤罪だからそれを証明してくれ」と頼む。阿部サダオさんは幼いころ虐待を受けて、ある女性の養子となった。そして、水上さんの母親役の中山美穂さんもまたその女性の養子だった。その間に妊娠していまの夫つまり水上さんの父と結婚したこともわかってくる。
連続殺人犯の阿部サダオさんは水上さんの父ではないのか。事件の謎解きの中心にいるのは、中山美穂さんだった。夫と阿部サダオさんが父であることを疑う水上さんの間で、揺れる心情を演技でみせた。
中山さんの訃報は、アジアのみならず世界で報道された。英BBCは「日本のスター 中山美穂さん、54歳で死亡」のヘッドラインのもとで、「80年代に日本のアイドルのひとり」と報じたほか、主演女優としての代表作として『Love Letter』をあげた。
日本の映像界は、これからさらに輝く可能性をもった星を失った。