そして集まって来る貴重な意見を社内で独り占めすることなく、広く読者と共有することの重要性を説いてきた。
この点で、読売新聞が定期的に朝刊1面と2面にまたがる大振りのオピニオン寄稿欄「地球を読む」を開設以来、30余年になるが、今日まで続けられてきたのは、主筆としての渡辺氏の強い意向を受けてのものだろう。
引き継がれていく信念
私的な関係でいえば、半世紀近くの記者生活を終え、第一線から退いた筆者がフリージャーナリストの立場で2011年に、書き下ろした著書『アメリカはカムバックする』(ウェッジ)刊行の際にも、その内容、タイトルなどについて渡辺会長・主筆から懇切な助言をいただいたことがあった。
発刊のタイミングに関しても、当時、わが国では、経済成長の低迷、財政債務拡大などを理由に「アメリカ衰退論」が闊歩していた時期だっただけに、「衰退論など間違いだ。長いワシントン特派員時代の経験と観察を下に、今こそアメリカの本当の実力を掘り下げ論じてもらいたい」との注文と激励を受けた。
その後、今日に至るまで、アメリカは経済成長を続け、最先端のIT分野でもGAFAに代表される米巨大企業が独占的地位にあることは周知の事実だ。
その米国との同盟関係の重要性を生涯叫び続けてきたのが渡辺氏だった。
「日本の安全保障の基軸は日米同盟の強化にある」――。わが国の国益を見据えた国際主義者としての信念は他界した後も揺らぐことなく引き継がれていくことだろう。
一見、こわもてで頑固者の印象が強かった「ナベツネ」さんは、実は柔和で礼節をわきまえ、他人に対しても優しく良き理解者だった。