2025年1月8日(水)

Wedge REPORT

2025年1月6日

 それが大きく変わったのが、2022年に起きたロシアによるウクライナ侵攻だ。「この戦争がロシアの勝利に終われば、次は我々が侵攻されるかもしれない」という危機感は深刻で、フィンランドはウクライナへの軍事技術や経済的支援、難民受け入れでも欧州トップクラスのサポートを続けている。さらに23年には長く距離を保ってきたNATOに加盟した。

ヘルシンキ市庁舎。フィンランドの旗と共にウクライナ国旗が掲げられている

フィンランド発展を
支える3つの要素

 しかしウクライナ危機は、同時にフィンランド国内の産業の発展に拍車をかけることにもなった。22年は世界的に軍需産業への投資が高まり、衛星や量子コンピューター、サイバーセキュリティーから人工プロテインなどのフードテック、医療技術などフィンランドが力を入れてきた産業への投資熱も増加した。

 まずエネルギー産業に関して、ロシアからの天然ガスがストップした分、再生可能エネルギーへの投資がさらに高まり、現在では原子力が42%、水力が19.2%、風力が18.5%、バイオマスが13.3%で、再エネが全体の52%を占め、脱炭素のエネルギー源が全体の94%となっている。フィンランドでは35年までにカーボンニュートラル実現、29年までに石炭火力の廃止などを掲げているが、その動きが一気に加速した。

 NATO加盟によるメリットも大きい。NATOにはDIANA(Defence Innovation Accelerator for the North Atlantic)という組織があり、加盟国の軍事民間双方に適用できるイノベーションに対し、資金提供を含む様々な支援を行っている。加盟国共有のレジリエンスを高めるため、防衛や安全保障に対抗するディープテクノロジーの発展を支えるのが目的だ。

 また22年には世界のVC(ベンチャー投資)からフィンランドにも多額の投資が集まり、5億ユーロを突破した。23年には投資額は減少したが、軍事民間双方に利用できる技術に注目が集まったことで24年は10月時点で前年比41%増となっている。

 新素材開発、電子半導体、デジタルインフラ、エネルギー気候技術、電子工学、AIとロボティクス、医療バイオテクノロジーなど様々な産業もあり、特にデジタルインフラでは量子コンピューターを製造するIQM社、レーダー搭載で地上の詳細情報を得ることができる衛星製造のICEYE社、新素材ではOnego Bio社、二酸化炭素(CO2)から科学的にタンパク質を作り出すSolar Foods社など、世界から注目される企業も多い。

 こうした技術立国を支援するのが、整った教育制度と政府機関の存在だ。フィンランドにはいわゆる私立大学はなく、授業料は無償。「小国であるからこそ人材を無駄にできない」という信念から、第一希望の大学に受け入れられなくても、願書さえ出していれば第二希望以降の大学から入学許可が下りることもあるという。

 日本と同じく少子高齢化という悩みがあり、能力のある移民受け入れにも熱心だ。フィンランドのスタートアップに就業する移民は、21年だけで16%増加したという。

 またフィンランドでは大学入学前や在学中に就労経験を積むのが一般的で、年齢に関係なく学び直す人も多い。大学院でもそれぞれの専攻に特化するのではなく、医学と工学をクロスで学べるなどの工夫により、様々なエキスパートが誕生する。


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