2025年1月8日(水)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2025年1月6日

経済回復策強化方針の提起

 振り返ってみると、24年上半年までは大規模な経済回復策(景気刺激策)が提起されることはなかった。冒頭に記したようにこれが転換したのは7月30日の中国共産党中央政治局会議(以下、中央政治局会議)である。背景には、党・政府指導部の経済情勢に対する危機意識の高まりがある。

 習近平総書記が、9月12日に地方視察先の演説で「通年の経済社会発展目標の任務達成に向けて努力すべきである」と強調したことでこの方向性は確定した。9月26日の中央政治局会議では、①財政金融政策による景気変動対応、②困難に直面する企業への支援、③民生のボトムライン確保、等の方針が提起された。諸施策を総合的に推進して経済の持続的回復に努力することが決定されたのである。

具体的政策措置の内容

 それ以降、国務院(政府)各部署は続々と具体的政策措置を公表している。【表】に政策措置項目を整理し、内容を概観する。

 第1に金融分野では、①預金準備率、金利引き下げの他に、②既存住宅ローン金利、2軒目以降の住宅購入時頭金比率の下限引き下げで家計の負担軽減が図られ、③株式市場下支えのための金融政策が実施される。内容は、証券・基金・保険会社が株式資産を流動性の高い国債と交換することの許可、自社株買いと増資のための特別融資実施などである。

 第2に財政分野では、①地方政府に今後3年間で6兆元の地方債増発を容認し、これとは別に今後5年間で4兆元の地方特別債を手当てし、合計10兆元が投じられる。地方政府の「隠れ債務」は現状の14.3兆元から2.3兆元に減る見込みである。そのほか②大規模国有商業銀行の資本増強、③不動産価格の下落防止、安定化措置(後述)、④貧困層、学生層に対する支援強化が図られる。

 第3に雇用分野では、「雇用優先戦略を実施し、質の高い充分な就業を促進することに関する意見」(24年9月15日付)が公表された。就業促進と起業奨励を基本に、雇用の質の向上と合理的な量の増加を推進するとしている。

 第4に企業支援策として、民営企業支援の「民営経済促進法案(意見募集稿)」(24年10月10日付)が公表され、全国人民代表大会常務委員会で審議が始まっている。ポイントは、民営経済に対する①市場競争への公正な参加のための公正競争審査制度の実施、入札や政府調達などの規範化、②主要な国家プロジェクトへの参加の支援、資金調達のためのリスク分担メカニズムの確立・改善、③国家科学技術研究参加の奨励、公共データ資源の開発・活用への参加の保証、知的財産権の保護の強化、などである。

 第5に不動産市場安定化として、従来より一歩踏み込んだ政策措置が実施される。ポイントは、①住宅の購入・販売に関わる各種の制限を大幅に撤廃、②金融分野で述べた住宅ローン関係の支援のほか、③いわゆる「ホワイトリスト」(建設状況や融資状況が正常で、資金回収見込みがあるプロジェクトリスト)向け融資の倍増(4兆元)、「城中村(都市部に残された村落)」や老朽化住宅の改修プロジェクトの100万件実施、などである。


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