2025年12月5日(金)

キーワードから学ぶアメリカ

2025年1月21日

 また、連邦議会の協力を経ずに実施されてきた諸政策は、覆される可能性が高いだろう。とりわけ、バイデン政権が発令した大統領令はトランプによって覆される可能性が高い。

 例えば、パリ協定からの再離脱などが実現される可能性がある。また、不法移民取り締まり強化や、21年1月6日の連邦議会襲撃事件で有罪判決を受けた人に対する恩赦なども、実施されるだろう。

 ただし、米国の大統領令は、決して連邦議会の立法を代替するものではなく、あくまでも既存の法律の枠内で政策実施の優先順位を定めるものと位置付けられている。したがって、法律上の根拠のない大統領令については、連邦最高裁判所が違憲判決を出す可能性が高い。また、一部報道によると米国内で不法移民が産んだ子どもへの国籍付与を大統領令で禁止する方向との指摘がなされているが、米国内で生まれた子供が米国籍を持つことは憲法で定められたことなので、大統領令で禁止することは不可能である。

 また、大統領令が出された場合でも、それに必要な予算を連邦議会がつけなければその大統領令は効果を持たない。例えば、トランプが最優先課題の一つとしている不法移民問題を例にとれば、1100万人ほど存在するとされる不法移民全員を一度で退去処分にするには3150億ドル以上かかるという試算がある。

 共和党議員も移民税関捜査局(ICE)の予算と人員を増やす方針を示してはいるものの、政権が望むだけの予算や人員が確保される見通しはない。また、国外退去処分を実施するまで不法移民を拘留する施設が不足しているし、強制退去処分を行うため必要な輸送手段も不足している。トランプ大統領が大統領令を出したとしても、それを実現するためにも連邦議会の協力が必要な場合が多いのである。

〝トランプ人事〟の行方

 第二次トランプ政権の行方を考える上では、政治任用について考える必要もある。連邦政府における政治任用ポストは4000近くあるが、そのうち上院の承認を必要とするポストが1200ほどある。

 第一次トランプ政権期と違い、第二次トランプ政権の閣僚候補は早い段階で提示されている。第一次政権期にはワシントンの政界関係者の推薦を受け入れて穏健な人物も政権入りさせたが(ただし後に更迭した人も多い)、第二次政権では自らに対する忠誠心の強さを基準に人選がなされているように思われる。

 大統領府の人選については、上院に承認が不要である。首席補佐官のスージー・ワイルズや、次席補佐官のスティーブン・ミラー、国家安全保障担当補佐官のマイク・ウォルツ、国境問題担当のトム・ホーマン、通商・製造業担当のピーター・ナバロらは指名通り就任するはずである。

 首席補佐官のワイルズは選挙対策の専門家としての手腕が知られているが、この人選はトランプが第二次の政権運営を選挙戦の延長線上に位置づけていて、岩盤支持層の支持確保を重視しながら実施する可能性を示唆している。なお、首席補佐官は連邦議会との調整役なども期待されているが、その実力については未知数であり、それが失敗すれば政権が混乱状態になる可能性もあるだろう。移民問題への強硬派のミラーやホーマン、内政重視の立場をとる対中強硬派のナヴァロらは第一期同様に強硬な立場をとり続ける可能性が高いだろう。


新着記事

»もっと見る