2025年3月14日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2025年1月23日

拡大する貿易黒字

 消費と投資がイマイチという状況下において、残る輸出が急成長し、5.0%成長を達成したというわけだ。

 純輸出は貿易とサービスに分けられる。中国のサービス収支は赤字なので、貿易収支によって純輸出の成長はなりたっている。統計をみると、近年、貿易黒字が急激に積み上がっていることが見て取れる。

 上図のうち、上のラインが輸出、下のラインが輸入を示している。二つのラインの開きが貿易黒字だ。

 輸出の増加ペースに比べ、輸入の増加ペースはゆるやかなため、19年以降は一貫して貿易黒字が拡大している。21年、22年はコロナ特需があった。サプライチェーンのどこかで感染爆発があれば調達がとどこおってしまうため在庫を増やそうという動きが強かったほか、コンピューターやタブレットなどリモートワークに必要な機器などの需要が高まったためだ。この特需が一巡し、在庫が削減に向かった23年の輸出は微増にとどまったが、24年は再び大きく伸ばしている。

 輸出好調とは良い話のようにも思えるが、これが今後の国際情勢における中国の苦境につながることは間違いない。すでに中国の輸出ラッシュは「中国発のデフレ」「チャイナショック2.0」として世界各国での警戒感が高まっている。

トランプを生み出したチャイナショック

 このチャイナショックについては、筆者が神戸大学の梶谷懐教授と共同で執筆した新刊『ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』(文春新書)で次のように解説している。

「チャイナショック」とはもともと、中国のWTO(世界貿易機関)加盟前後である1990年代末から21世紀初頭にかけて、中国からの労働集約的な工業製品の輸入が急増し、米国内における雇用を減少させたことを指す言葉だった。これは、マサチューセッツ工科大学教授のデヴィッド・オーターらの研究によって広く知られるようになる。鉄鋼やガラスなどの原材料、衣料品、電化製品(の組み立て)など付加価値が低い製品が輸出の中心だったが、特にその衝撃を受けたミシガン州やペンシルベニア州はラストベルト(さびついた工業地帯)と呼ばれ、格差の拡大と政治的分断につながった。米国では200万人の失業をもたらしたとの推計もある。

 広く報じられているとおり、チャイナショックによるラストベルトの経済的凋落と格差拡大が現在のトランプ大統領誕生へとつながった。中国に仕事を奪われたことへの怒りを持つ人々が支持者にいる以上、トランプ大統領は新たなチャイナショック2.0にも強い対抗姿勢を示すことになるだろう。

 しかも、もともとのチャイナショックでは先進国も付加価値の高い商品や部品、製造設備を中国に販売することで利益をあげていた。米国にもラストベルトの労働者に代表される負け組がいた一方で、利益をあげていた人々もいたわけだ。

 ところがチャイナショック2.0では様相が異なっている。高付加価値のEV、車載バッテリーに用いるリチウムイオン電池、太陽光パネルなど高付加価値の製品の輸出が劇的な成長を続けている。また、以前の輸出は外資系企業の中国工場による輸出も多く含まれていたが、今や中国企業が成長し独自に海外輸出を行うようになった。低付加価値から高付加価値まで中国に総取りされると懸念されるわけだ。


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