それでも貿易摩擦を激化させる習近平
中国政府は貿易黒字に対する批判にどう立ち向かおうとしているのだろうか。
第一次トランプ政権との関税戦争では、中国は輸入拡大によって批判を軽減しようとした。中国は17年に輸入拡大を表明、翌18年に第1回国際輸入博覧会を開催した。この表明は達成されるかに見えた。前図に示したとおり17年、18年は輸入拡大により、貿易黒字が縮小している。
だが、輸入拡大の号令の御利益はこの2年しか持たなかった。その後、輸入の伸びはストップしている。中国経済が低迷している今となってはもう一度、輸入拡大をぶちあげることも難しい。
さらに問題なのは、中国が「新しい質の生産力」をスローガンとしてさらなる製造業強化を進めている点だ。生産能力が強化されても中国国内で消化する能力が減退している以上、輸出するしかない。むしろ貿易摩擦が激化する方向に改革を進めているわけだ。
なぜ、このタイミングで中国をさらに苦境に追い込むような製造業の強化を推進しているのか。この点については前述『ピークアウトする中国 「殺到する経済」と「合理的バブル」の限界』で詳述している。詳しくは同書をご覧いただきたいが、大きな背景としてあげられるのは中国共産党と習近平総書記の「成功体験」だ。
中国ではリーマンショック後の経済改革において、新自由主義的な供給面重視の政策を打ち出し、大きな成果をあげてきた。日本人からみて興味深いのは、その際に一種のお手本として持ち上げられたのが小泉純一郎政権のブレーン、経済学者の竹中平蔵であった。構造改革の徹底によって経済を回復させられる。この竹中平蔵テーゼを、中国は着々と実行し、一定の成果をあげてきた。
この手法が長期的に見て本当に正しいものであったのか、ここでは評価しない。ただ、少なくとも景気低迷と貿易摩擦に直面する現在は、リーマンショック後の中国とは異なる対策が求められることは間違いない。
それにもかかわらず、中国共産党は「新しい質の生産力」という改革に邁進している。その先には貿易摩擦の激しい対決が待ち受けているのは誰の目にも明らかなのに、だ。
習近平総書記、そしてトランプ大統領。米中双方のトップはいずれも自身の手法と成功体験に強い自信を持つストロングマンだ。25年は両者の自信が衝突し、世界に波紋を広げる波乱の年となるのではないか。