2025年12月5日(金)

世界の記述

2025年1月25日

 第2に、24年12月8日のシリアにおけるアサド政権崩壊の影響も大きい。イランは、戦略的要衝に位置するシリアを、歴史的友好関係、「イスラーム国」対策および「抵抗の枢軸」ネットワークの維持等の多角的観点から支え続けてきた。しかし、イスラエル・ヒズボラ間の停戦合意(11月26日)に伴うヒズボラの油断、ロシアがウクライナ戦線に資源を割く中でシリア方面が疎かになっていた事態、そして、「抵抗の枢軸」が弱体化していた状況下、シャーム解放機構ら諸派が一気呵成に猛攻を仕掛けて政権を奪った。

 これによって、イランからパレスチナ・レバノンへの橋頭保の役割を担っていたシリアで、イランは足場を失う形となった。イランにとってイスラエルへの前方抑止の機能を失ったことを意味しており、安全保障上の打撃となった。

 第3に、冒頭でも言及した、トランプの再登場である。トランプ第1期政権は、18年5月にオバマ前政権の最大のレガシーの一つといわれた核合意から単独離脱、イランに対し「最大限の圧力」を課した。これによって、イランの財政は、金融取引制限、原油輸出による外貨収入の激減、通貨下落、若者の失業等によって逼迫する事態に陥った。

 また、トランプ政権は20年1月にイランの地域における影響力拡大の立役者だったソレイマニ革命防衛隊ゴドス部隊司令官を殺害するなど、軍事的圧力も強めた。

 全体として、イランが優位にあるという安全保障認識は、徐々に過去のものとなりつつある。

イラン体制が示す対処方針

 それでは、このようなイランの「劣勢」に対し、体制指導部はどう対処しようとしているのか? 前述の諸要因に対応する形で、体制指導部の認識・立場を確認したい。

 第1に、イスラエルに関し、革命防衛隊は「真の約束」作戦の第3弾を実行する立場を崩していない。24年12月18日、革命防衛隊のファダウィー准将は、10月の攻撃でイラン人4人の命を奪ったイスラエルに対し、「真の約束3」作戦を必ず実行すると発言している。後述の通り、外務省を中心とする国際協調路線は欧米との対話を続けたい立場だが、革命防衛隊をはじめ、イラン国内の強硬派は作戦実行のゴーサインが出るのを待っている状況だ。 

 第2に、「抵抗の枢軸」に関し、ハメネイ最高指導者は、抵抗戦線は弱体化していないと強弁している。同指導者は24年12月17日、ファーティマ(預言者ムハンマドの娘)の生誕祭を前に控えた演説で、「抵抗は終わったと、(敵は)考えるかもしれない。しかし、その考えは完全に誤りである。セイエド・ハッサン・ナスルッラー、シンワールの精神は生きている」と発言した。ここからは、イランは抑圧者と見做すアメリカとイスラエルに対する「抵抗」を続ける意思を依然有すると推測される。

 第3に、アメリカとの関係に関し、イラン政府高官はアメリカ大統領選挙の結果はイランに影響を与えないといった立場を見せている。例えば24年11月16日、ペゼシュキアン大統領は、「誰が大統領になろうとも何の変わりもない」と発言した。同様に、ガリバフ国会議長も10日、「他国の大統領任期はイランに何の影響も及ぼさない」と述べ、アメリカ大統領選挙の影響を否定した。


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