こうした弾道ミサイル・ドローン技術の向上は、イラン・イラク戦争(1980~88年)に孤立無援の状況下で辛酸を舐めた経験則に基づく国家的計画の一部でもあり、これによってイランとしては敵対する国々を牽制しようとしている。
この他、イランはホルムズ海峡というチョークポイントに対する影響力を有していることから、何らかの形で海上での示威行為が顕在化する可能性や、「抵抗の枢軸」ネットワークの再構築に向けた取り組みを活発化させる可能性もある。特に、イエメンのフーシ派、イラクのシーア派諸派との関係維持は、パレスチナ、レバノン、シリアでの劣勢を踏まえれば、その重要性を増している。
最悪のシナリオは、アメリカの圧力が経済面だけではなく、軍事面にも広がることである。イスラエルのネタニヤフ首相の進言を受けて、アメリカがイランの体制転換を追求すべしとなれば、中東地域の情勢、ひいてはエネルギー需給を含めた国際情勢に深刻な影響を及ぼし得よう。
不確実性の増す将来
本稿を通じて見た通り、イランを巡っては、イスラエルとの対立、「抵抗の枢軸」の弱体化、トランプ再登場、イラン国内での体制不満の高まり、最高指導者の高齢問題等、課題山積である。イラン国内では、1月18日に首都テヘランの最高裁判所で判事2人が何者かによって殺害される事件が発生するなど、不穏な気配も漂う。竹のような柔軟性を持つイラン体制が事態にどう対処するかは、25年の中東情勢を読み解く上で重要な焦点である。
現在、25年1月19日にイスラエル・ハマス間の停戦合意が発効したことで、中東にひと時の平穏が戻ることへの期待が高まっている。あらゆる人々が、尊厳ある生活を送ることができる状況が望ましいことは論を待たない。そうした中で、もしイスラエル・アメリカがパレスチナ・ガザ地区住民をはじめ被抑圧民に対する攻撃や抑圧を強める場合、イランおよびイランと考えを同じくする抵抗戦線は再び「抵抗」を活発化させることだろう。
欧米諸国は、中国、ロシア、イラン、北朝鮮を「CRINK(クリンク)」、台頭する枢軸(the Rising Axis)、動乱の枢軸(the Axis of Upheaval)等と呼称して分断を深めるのか、それとも対話の道を模索するのか。欧米諸国によるイランへの対応のあり方が問われている。分断の道を選べば、イランをさらに中露の側に押しやることになる。
