2025年5月16日(金)

日本人なら知っておきたい近現代史の焦点

2025年1月27日

衝撃だったMLBデビュー年

 イチローが米国で通用するかについての否定的な意見は、むしろ日本人の間に多く見られた。イチローの体格が日本のプロ野球においても抜きん出ていたわけでもないこともあり、イチローのようなタイプの選手がメジャーリーグで通用するのだろうかと疑問が呈された。

 移籍が報じられるや、日本のマスコミは、「パワーがない」、「不安視されるのはやはり体力面」、日本食を好んで好きなものばかり食べているから、遠征ばかりのメジャーリーグでは難しいのではなどと否定的な言葉であふれた。また、ホームランバッターでなく、地味な内野安打などを多く打つイチローのスタイルもダイナミックなメジャーリーグでは受け入れられないのではないかという声も大きかった。

 しかし、2001年のシーズンが始まるとイチローは、開幕戦から先発出場し、2安打1得点の活躍を見せた。イチローはその後も活躍を続けたが、それは打撃面にとどまらず、「レーザービーム」として知られる送球や、盗塁など走攻守すべてに及んだ。ホームラン数こそ多くないものの、イチローは米国野球ファンの間で大人気となり、その年のオールスターゲームでは、1位の得票数で選ばれている。

 結局、この年は移籍初年度にもかかわらず、メジャーリーグ新人最多安打記録となるシーズン242安打を放ち、打率3割5分で首位打者、盗塁、シルバースラッガー賞、ゴールドグラブ賞と数多くの賞を受賞した。新人王とMVPの同時受賞は、他に例が一つあるだけの快挙であった。あの大谷翔平ですら、最初のシーズンは新人王は獲得しているがMVPは獲っていない。

地元ファンからも愛される

 その後の活躍は有名である。3年連続オールスター最多得票、10回連続のオールスター選出、10シーズン連続の200安打越え、3000本安打500盗塁達成など枚挙にいとまがない。なかでも注目されたのが、2004年に262安打を放ち、84年ぶりにジョージ・シスラーのメジャー歴代シーズン最多安打記録の257安打を更新したことであった。

 イチローは地元シアトルのファンからは特に愛された。中でもイチローの安打数を記録する手作りボードを球場で掲げていたエイミー・フランツは有名であり、イチロー本人の知るところともなり交流が生まれている。イチローがシアトルを去ってニューヨーク・ヤンキースへ移る時、シアトルの北90マイルの町ベリンハム出身のバンド、デス・キャブ・フォー・キューティーのベン・ギバードは賛歌を公開している。

 なぜイチローは米国においてこれほどまでに評価され、愛されるのだろうか。もちろん、その偉業によるところは大きい。打撃はもちろん、10年連続ゴールドグラブ賞を受賞した守備、500を超す盗塁と高い成功率。ただ、彼が愛され評価されるのは、それだけではないように思える。


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