2025年12月6日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年2月7日

 TikTokは発効に先立ち運用を停止した。しかるに、就任の日、トランプは大統領令をもって禁止法の執行を当面猶予すると公表し、TikTokは運用を再開した。

 この論説は、トランプが禁止法を無視していると断じているが、一体、最高裁判事が全員一致で合憲と判断した法律の執行を一片の大統領令をもって差し止めることが出来るのか。

 この一件は第7代大統領アンドリュー・ジャクソンの行動を想起せしめると論説は述べているが、問題はインディアンのチェロキー族の土地に適用されるジョージア州法は違憲だとの訴えに対する1832年の最高裁判決だった。

 単純化して言えば、憲法あるいは連邦法はインディアン諸部族との関係を律する権限は連邦政府のみに与えており、ジョージア州法は連邦の権限を侵害するもので無効との判決を最高裁は下した。しかし、ジョージア州は最高裁判決を無視した。

 当時の南北分裂の危険性という背景もあってアンドリュー・ジャクソンも行動しなかった。結局、1836年には、チェロキー族1万7000人は住み慣れた故郷を追われ、現在のオクラホマの居留地に徒歩で移住することを余儀なくされる悲惨な運命を辿ることになる。

最高裁は意味をなさなくなるのか

 もう一つ、トランプは国籍の出生地主義を定める憲法の規定を無視して(無理矢理曲解して)、出生地主義が適用される範囲を狭く絞り込む大統領令を発出したが、たちまち多くの訴訟が全米で提起されているようである。いずれ最高裁の判断が求められることになるように思われるが、最高裁はどのように行動するのか。

 最高裁の権限と権威は長い歴史を経て確立して来たものであり最高裁の判決が執行される理由はその権威をおいて他にない。判決が無視されれば、最高裁自体には順守を確保する手段はない。

 本件にしろ、TikTokの件にしろ、トランプは憲法あるいは法律を無視して最高裁の権威に敢えて挑戦しているように思われ、その帰趨が及ぼす影響には甚大なものがあり得よう。

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