2025年12月5日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2025年2月8日

工夫は無限にある

台所に敗戦はなかった
魚柄仁之助
ちくま文庫
924円(税込)

『台所に敗戦はなかった』魚柄仁之助、ちくま文庫、924円(税込)

 本書では戦中戦後の食卓を紹介していく。「西洋ずし」「トマトうどん」「バナナの皮の天ぷら」など、面白い料理名が並ぶ。タイトルが示す通り、太平洋戦争に敗戦したからといって、食べることをやめるわけにはいかない。「男が敗戦に打ちひしがれているとき、家庭のかあさんたちは『この子に何とか食べさせなきゃ!』の一念で食事作りに立ち向かっていました」。そんな一節を読むと、19歳で敗戦を迎えた小誌記者の祖母が、創意工夫しながらごはんをつくってくれたことを思い出した。小誌連載「胃袋を満たしたひとびと」の筆者・湯澤規子氏の解説も興味深い。

近くて遠い食卓

北朝鮮の食卓 食からみる歴史、文化、未来
キム・ヤンヒ(著)、金 知子(訳)
原書房 3080円(税込)

『北朝鮮の食卓 食からみる歴史、文化、未来』キム・ヤンヒ(著)、金 知子(訳)、原書房、3080円(税込)

 平壌の人に最も食べられている平壌冷麺、北朝鮮のビビンバである海州攪飯─。身近な食べ物を通じて北朝鮮を知らせたいと考えた元食品専門記者の著者が、北朝鮮の食の成り立ちや文化を語り尽くす。北朝鮮は料理加工の標準化を推し進め、レシピを全国に広めているというから驚きだ。スケトウダラで客人をもてなした歴史や、100%北朝鮮産の大同江ビールを誇りにする姿を知ると、食は国境を越え、人々の距離を縮めるものであることを教えてくれる。


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