「『Gilde Age』の頃の執政は、ユリシーズ・グラントからマッキンリーまで8人の大統領の手に委ねられたが、その頂点を極めたのが、マッキンリー大統領だった。彼は、就任とほぼ同時に、金本位制に踏み切り、経済発展に意欲を燃やした。彼が連邦議員時代から対外政策で最も重視したのが、諸外国に対する関税措置だった。大統領就任時の1897年に正式に制定された『関税法』により、外国製品に対し、50~57%という高関税を発動した。国内産業保護が目的だったが、結果的に国内諸物価を25%近くも押し上げ、一般市民生活に大きな影響をもたらした。反面、上流階級が外国から求める家具、調度品、装飾品などのぜいたく品は非関税扱いとするなど、貧富格差拡大につながった。また、マッキンリー大統領在任中、米国は米西戦争(1898年)でスペインに勝利し、プエルトリコ、グアム、フィリピンを領有するに至った」
このように「Gilded Age」の象徴的存在とされたマッキンリー大統領と、今回「Golden Age(黄金時代)」のアドバルーンを打ち上げたトランプ大統領が、「関税(tariff)」政策を共に最優先課題と位置付けた点は特に注目すべきだ。
実は短命だったマッキンリーの関税政策
トランプ氏がマッキンリー大統領の存在に言及したのは、冒頭で触れた大統領就任式演説が初めてではない。
昨年の大統領選挙戦最中のミシガン州での演説で「マッキンリー大統領時代の良き時代」に触れ「1890年代にわが国は、関税政策のおかげで最も富める国になった」と語ったほか、同年10月にも、「Fox News」テレビ会見番組で同大統領の功績をたたえ「彼は大物関税男(a big tariff guy)だった」とコメントしたことが報じられていた。
また、今年に入り、就任式に続きその翌日にも、記者団とのやり取りの中で同大統領について取り上げ「彼はまさに関税王(tariff king)」と持ち上げており、トランプ氏自らも「tariff man」と呼ぶなど、二人の間の共通項として「関税重視」姿勢があり、まさに関税を経済成長のテコとしていることも偶然の賜物ではない。
トランプ大統領のみならず、商務長官に起用されたばかりの富豪実業家ハワード・ラトニック氏も昨年、ニューヨークでの記者会見で、「歴史上、米国が最も偉大だった時期は?」との質問に対し、即座に「マッキンリー時代」と答えた上、「1900年の頃の米国経済は繁栄を極めた。当時、個人所得税制度もなく、あったのは関税だけで、それでもわが国には巨額の財源があった」などと力説している。
まさに、トランプ第二次政権の目玉ともいうべき関税政策は、マッキンリー時代を参考にして昨年大統領選挙前からラトニック氏と二人で入念に練り上げてきた構想であったことをうかがわせる。
しかし、マッキンリー大統領の「関税重視」政策は、実際は短命に終わった。
なぜなら、彼が大統領選で勝利を収めた翌年の1897年後半には、米国は早くも列強間の激しい経済競争から取り残され、保護貿易主義の矛盾が露呈し始めたからだった。
これを受けて、同大統領は97年末、オハイオ州シンシナチ商工会議所での演説で「わが国が直面する諸問題の解決には、世界の多くの国とできるだけ貿易をしていくしかない。そのためにどんどん輸送船を建造し、わが国の通商を平和と友誼の使者としよう」などと熱弁をふるい、従来の高関税に支えられてきた保護貿易主義への決別を告げている。