この間のマッキンリー大統領の変身ぶりについて、『アメリカ世紀の設計者—マッキンリー大統領』の著者でジャーナリストのロバート・メリー氏は最近、ニューヨーク・タイムズ紙とのインタビューで次のように説明している:
「マッキンリーは下院歳入委員長時代から、政治家として自分の名を残す唯一の策は、大胆な関税政策だとして重視してきた。1896年大統領選に出馬した際も、これを最大の売り物として有権者にアピールし、当選した。しかし、すでにそのころから、米国で工業化が進み、大量生産した自国の工業製品のみならず、オートメ化によって安価に産出される農産物まで含め、輸出の重要性が認識されるようになった。そこで彼は、大統領就任直後から工場経営者、労働者、農業従事者の要求に耳を貸すようになり、保護貿易主義から輸出促進へと立場を転換させ始めた。そして、再選に向けた1900年選挙戦では、諸外国に貿易障壁撤廃を求めると同時に『善意と友好的貿易関係こそ関税報復合戦回避の最善の道』と認識するに至った」
上記の説明で特に重要なのは、今次トランプ政権がモデルとする「マッキンリー時代」とは、正確にはマッキンリーが「関税最優先」を力説してきた大統領就任前までの時代回顧に過ぎないという点だ。
トランプ政権の大きな違い
そこでは、就任後ほどなく、「自由貿易主義」に転向したマッキンリー政権の実相は完全に無視されているといわざるをえない。
にもかかわらず、マッキンリー礼賛を続けるトランプ大統領は去る2月1日、カナダ、メキシコ両国に25%, 中国に対し10%の高関税を強硬発動、世界経済に大きな動揺を与え続けている。
さらに140年前のマッキンリー政権と異なるのは、トランプ政権を支える閣僚リストに億万長者たちがずらりと名前を連ねている点だ。
米NBCテレビによると、資産640億ドルに達するとされる大統領のほか、今や世界最富豪にのし上がったイーロン・マスク「効率化省」最高責任者、そしてラトニック商務長官、クリス・ライト・エネルギー長官、リンダ・マクマホン教育長官ら8人に達しており、彼らの資産を合わせると推定3440億ドルという途方もない史上初の「Golden Cabinet」が出現したことになる。
このほか、マッキンリー時代との関連では、トランプ大統領の領土拡張をめざす異常なほどの野心が指摘される。
トランプ氏は就任以来、①パナマ運河は米国保有とすべきだ、②グリーンランドをデンマークから買い取る用意がある、③隣国カナダは米国の51番名の州となるべきだ、④中東ガザ地区はわが国が占有する――などと唐突な発言を繰り返し、それぞれ当事国から猛反発を食っている。
こうした主張は一見、米国がフィリピン、グアム、プエルトリコを併合したマッキンリー時代を想起させる。
しかし、マッキンリー大統領自身はもともと、軍事力行使による強引な海外領土併合には、消極的だった。例えば、スペイン統治領だったキューバで反乱が起こった1898年当時、米国の大衆紙はじめ大多数の国民は、スペインとの戦争布告を求めたが、大統領は外交重視の立場から、「中立的立場での事態収拾に乗り出すべきだ」と主張し続けた。