ドイツも例外ではないが、今後電力需要は伸びに転じるとの予想が多い一方、低コストの中国の生成AI「DeepSeek(ディープシーク)」の登場により需要へ懐疑的な見方も出てきた。米国では発電用タービン・メーカーGEベルノバ、GPU(画像処理半導体)製造のエヌビディアなどの株価が1月下旬に大きく下がったが、すでに上昇に転じている。
その背景には、米国では、AIのコストが下がれば利用が広がり、さらにGPU、電力への需要が高まるとの見方も多いことがある。何人かの識者は、19世紀の経済学者ジェボンズのパラドックスを例に挙げている。こんなパラドックスだ。
蒸気機関の効率が上昇すれば石炭の需要は減少するとの見方は間違いで、効率向上はさらなる利用を招き石炭の需要は増えるというジェボンズの説だ。ジェボンズは石炭の需要増により、やがて埋蔵量が尽きれば成長は止まると指摘したが、石油の登場までは予測できなかったようだ。
電化の進展もあり、主要国では電力需要に応え安定的な電力供給が必要になる。その時に必要になるのが供給源の多様化だ。
ロシアに依存しすぎたドイツ
ドイツの21年時点の一次エネルギー供給では、天然ガスの比率は27%だった。日本の液化天然ガス(LNG)は発電用の使用が多い。ドイツでは発電用の利用は相対的に少ないにもかかわらず、天然ガスの比率が日本よりも高いのは(図-5)、製造業での天然ガス利用が多いためだ。
その天然ガスがどこから供給されているかドイツ政府の公式資料はない。政府が、エネルギー輸入国の情報開示を情報保護の観点から16年に停止したためだ。
ロシアのウクライナ侵攻時点でのロシアへの依存度は公式には不明だったが、ハーベック経済気候保護相は、ロシア侵攻時に、ドイツの天然ガス輸入における各国のシェアを次のように発言している。ロシア55%、ノルウェー30%、オランダ13%。輸入比率は95%だったので、ロシアに天然ガス供給量の52%を依存していた。
73年の旧ソ連時代から開始されたパイプラインによる競争力のある天然ガスは、ドイツの産業と家庭を支え、大きなトラブルがなかったことから、ドイツは海底パイプライン・ノルド・ストリームIの敷設によりロシアへの依存度を高めた。
ドイツは再エネ導入を進めた結果、供給量は増加したものの、データーセンターに安定的に電力を供給するには、再エネだけでは不十分だ。米国の大手テック企業のように原発の電力にも依存せざるを得ない。
フランスのマクロン大統領は、フランスの原発からの電力供給を基に1000億ユーロを超すデーターセンターなどへの投資が見込まれると発表しており、近隣諸国と競争し成長産業を呼び込むには安定的な脱炭素電源は必須だ。