ちなみに、23年にウクライナ版の『フォーブス』誌が発表したところによれば、ウクライナの地下資源の埋蔵額は14.8兆ドルに上るが、ドネツク州が3.8兆ドル、ドニプロペトロウシク州が3.5兆ドル、ルハンシク州が3.2兆ドルと、この3州だけで全体の7割を占めているということである(下記グラフ参照)。24年末の時点で、ルハンシク州の99.3%、ドネツク州の70%がロシアに占領されており、ドニプロペトロウシク州も前線から近く決して安心できない。戦争がどう決着するかによっては、「西側諸国に資源開発に関与する機会を提供する」という構想も、絵に描いた餅に終わってしまう恐れがある。
食い付いたトランプ
ウクライナの「勝利計画」は米国のバイデン前政権に提示されており、重要問題ゆえ、当然トランプ政権にも引き継がれているはずである。おそらくそこには、ウクライナに埋蔵されている資源の地図もしくはリストのようなものがあったのではないか。
トランプのチームはその中から、目ざとくレアアースを見付け、ひらめいたのだろう。中国と経済戦争を戦っていく上でも、ウクライナの希少資源を我が物にできれば、美味しい話だ。
そもそも、バイデン政権がウクライナに無償で軍事支援をしてきたことが誤りであり、我が国にはその対価としてウクライナのレアアースの権益を全面的に譲渡される権利がある。実際にどれだけ「回収」できるかは別として、大統領がそのように立ち回れば、トランプ支持者は間違いなく拍手喝采を送ってくれるはずだ。おそらくはそんな判断だったに違いない。
現在、トランプ政権側が求めているのは、ウクライナの資源から得られた利益を、特別に創出する「基金」に繰り入れ、その一部をウクライナの復興に充てつつも、半分は米国のものとするというスキームだという。しかも、対象となる資源は、当初強調したレアアースだけでなく、その他の希少資源や、石油・ガスも含まれると伝えられる。この仕組みにより、ウクライナは米国に負っている負債の5000億ドルを返済せよというのが、トランプ政権の要求のようだ。
これに対し、ゼレンスキー大統領は米国による支援は1000億ドル程度だったと主張している。そもそも、バイデン前政権が贈与として実施してきた支援を、事後的に負債と見なし、対価を求めること自体、どうかしている。しかも、トランプ政権側の立場によれば、これはあくまでも過去の支援に対する見返りであり、今後のウクライナの安全保障にコミットするつもりはないということである(その役割は欧州に押し付けようとしている)。この点で、ウクライナ側の立場と根本的に相容れない。