一方、マクロン大統領の提案は、フランスの国内では論議がある。同大統領に反対する勢力は、こうした考えはフランスの主権に対する許されざる侵害であると捉えている。
フランスの極右の指導者マリーヌ・ルペンはマクロン大統領が「フランスの抑止のモデルを害している」と述べた。マクロンは、フランスはその核兵器の管理とその使用についての決定権を保持し続けると主張している。
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欧州で高まるロシアからの脅威
欧州独自の核抑止の必要性については、第二期トランプ政権の発足前から欧州で盛んに議論されていた。が、そうした議論がマクロン仏大統領によっていよいよ政府間での討議の俎上に挙げられることとなった背景には、就任以来のトランプの動きがあることは言うまでもない。
冷戦時、西欧の防衛戦略にとって、米国の核抑止は不可欠の要素であった。ポスト冷戦期には米国の核抑止の重要性は減じたものの、米国は引き続き欧州に核の配備を続けており、これまで 北大西洋条約機構(NATO)の防衛戦略の重要な要素と考えられてきた。
そこに来て、第二期トランプ政権の登場で、NATO加盟国が侵略された際に、米国がNATO第 5条に基づいて来援する信憑性は大きく損なわれることとなった。そうだとすれば、ロシアの侵略がウクライナで止まらない場合、欧州は米国を当てにせずに自ら対処しなければならない。通常戦力はこれから増強していくとして、核抑止をどうするかである。
欧州の核兵器国は、英国とフランスである。英国の核戦力は、初期の段階から米国の支援と協力を得ていて、米国抜きでどれだけ機能するかには疑問がある。そうすると、現実的には、フランスの核戦力をどこまで欧州の防衛のために使えるかの議論となる。この解説記事にあるように、ドイツ次期首相となるメルツ・キリスト教民主同盟(CDU)党首の呼びかけ、マクロンの演説によってフランスの核抑止力を欧州に広げる可能性について本格的に討議されることになった。
フランスの核戦力は、核弾頭は総数290、配備数280とみられている。フランスの核の目的は、フランスの自立と偉大さにこだわったドゴールの考えを色濃く反映し、「フランスの死活的な利益を守る」こと、「フランスの自立と行動を守る」こととされている。フランスは、そうした立場から、自国の核を決して同盟の枠組みに委ねてこなかった。
フランスは独自性確保のため、1966年にNATOの軍事機構から脱退した。2009年に復帰を果たしたが、核戦力はフランス独自の管理下におくことを条件の一つとし、NATOの核計画グループ(NPG)にも参加していない。
