2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年4月1日

マクロン提案にはらむ4つの課題

 マクロンの提案には、それなりの背景・理由があるが、その実現には多くの課題がある。第一は、核の傘を提供するフランス側の基本姿勢の問題である。マクロンの提案とは言え、この解説記事にもある通り、フランスの核の傘を他国に提供することには、フランス国内でも賛否両論がある。

 マクロンは、欧州重視姿勢が非常に強い大統領であり、以前からフランスの核の傘の対象を欧州に広げる可能性に言及してきた。一方、そうした欧州重視姿勢がフランスで今後も継続する保証はない。2027年の次期大統領選挙の世論調査でトップを走っているマリーヌ・ルペン(国民連合)は、欧州懐疑派で、フランスが核の傘を欧州の他国に提供することに反対である。

 第二の課題は、フランスの核の傘をどの国に対して提供するかである。現実的には、まず、フランスと関係緊密化を進めているドイツとポーランドが議論の中心となることが考えられる。が、フランスにとって、「ベルリン/ワルシャワのためにパリを危険にさらす覚悟があるか」の問題を提起する。

 第二次世界大戦後、米国が多くの同盟国に対して核の傘の提供を含む防衛コミットメントを行ったのは、イデオロギー的理念などソ連との対抗意識、他に隔絶した国力、国論の統一があったためで、今日のフランスとは全く異なった状況である。また、こうした核の傘の提供を受ける側の国においても、フランスの保護下に入ることの是非が議論となろう。

 第三は、核戦力の量と種類である。フランスの現在の核戦力は大国としての地位を保持し、自国が侵略を受けないための抑止力としては十分であったかも知れないが、核の傘を他国に提供し、ロシアとの軍事的緊張に対応するためには十分とは言いがたい。

 ロシアの核弾頭数は総数5580、配備数1770とみられ、フランスとは大きな差がある。対立が高じ、核の威嚇が発せられ、核使用に事態が悪化する可能性が生じた際に、ロシアの核戦力に圧倒されないようにするためには、現状の核戦力のままでは心許ない。

 第四の課題は、米国との関係である。マクロンが欧州独自の核抑止力についての討議を呼びかけたとは言え、現状、防衛のために米国をつなぎ止めようとするのが欧州の立場である。その中で、欧州独自の核抑止の議論を進めることは米国が欧州を放り出す契機を作り出すリスクもある。そうしたリスクも考慮しながら関係国間での討議を行っていく必要がある。

 欧州の安全保障の仕組みをどう構築するか。1949年以来75年間続いたNATOに代わるものを考えなければならないだけに、課題は山積である。

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