原子力の専門家は、現在導入されている安全対策と技術により、1986年のような大規模なメルトダウンの可能性ははるかに低いと述べている。それでも、国際原子力機関(IAEA)は、原発に非常に近い場所での軍事活動のリスクと、戦争が職員に与える影響について、絶えず警告を発している。
2月、IAEAは、唯一残っていたバックアップ電源が失われた後、原発は1本の外部電力線に頼っていたと述べた。同機関は、この状況は「軍事紛争中の極めて脆弱な原子力安全状況」を浮き彫りにした、としている。
* * *
トランプの交渉の主眼
3月19日に行われたトランプ・ゼレンスキー電話会談は、停戦に関する前日のトランプ・プーチン電話会談の結果をゼレンスキーが聴取することが主眼であったが、その中でザポリージャ原発についてもやり取りがあった。
トランプとしては同原発の米国による所有と管理を想定しており、これに対しゼレンスキーは所有権を議論するつもりはないとの立場で両者間に立場の相違があるが、本件記事が指摘するように、これを放置すれば非常に危険な状態になりかねないことは、その通りである。
ただその上で、本稿では、停戦仲介にかかるトランプの狙いが奈辺にあるのかという観点から、当初19日に唐突になされたともみられていた同原発の所有・管理提案の背景を考えてみたい。
結論を先取りすれば、トランプとしてはウクライナの安全保障を全く考えていないとは言わないが、主眼はむしろロシアとのビジネス関係再開の展望にあり、本件原発にかかる提案はそのような文脈の中で行われていると見た方が分かりやすいということだ。このようなトランプのアプローチはこれまでウクライナ戦争に対し西側がとってきたスタンスに完全に逆行するものと言わなければならない。
第一に留意すべきは、本件原発所有等の提案とウクライナのレアアース等天然資源開発の関連性である。米国によるウクライナの天然資源開発への参加問題は、仮に原案どおり合意されれば、米国としてはウクライナと協力しつつ同国の天然資源を開発し、そこから得られる利益の半分を取得することになる。他方、鉱物資源開発には多量の電力を必要とする。
戦争被害のためウクライナの基幹インフラは大きく損傷しており、いずれにせよ膨大な復興作業が必要であるが、中でも電力源の回復は最優先事項の一つであり、鉱物資源開発にとっても不可欠の前提となる。すでにトランプ大統領がザポリージャ原発をレアアースその他の天然資源開発に必要な電力供給源として使用することを考えているとする報道もあるが、トランプがそのような発想をしても全く不思議ではない。