2025年4月17日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年4月7日

 ところがレアアース・メタルの大部分は現在ロシアが占拠しているドネツク、ルハンスク州を含むウクライナ南東部にあり、またザポリージャ原発もロシア占領地域内に所在している。ゼレンスキーとしてはだからこそ、米国との間で資源開発の利益とウクライナの安全の保証をディールするつもりであった。ところがこれまでのトランプ政権の言動を見る限り、現時点において米国がロシア軍を現在の占領地から撤退させることを現実の課題とし取り組もうとする姿勢は全く見られない。

経済制裁も緩和か

 そのような中で、トランプはウクライナの天然資源開発から利益を得ることに固執している。そうであれば米国としては資源開発の利権を得るためロシアと交渉するしかない。

 「限定的停戦」に合意した3月18日のトランプ・プーチン電話会談後の米側発表文には、両首脳の合意内容には和平達成後の「膨大な経済取引」が含まれているとの一文があり、また同様のクレムリンの発表文でも、両首脳が「経済ならびにエネルギー分野における互恵的な協力の展望」に関する「幾つかのアイデア」について話し合ったとされている。これらは停戦(ないし終戦)後の資源開発にかかる米露間の協力につき、すでに何らかの話し合いがなされている可能性をうかがわせるものである。

 トランプ政権がウクライナ・ロシア間の停戦達成に向けて努力していることは確かであるが、同政権がこの過程において一定の経済的利益を確保しようとしていること、及び総じてロシア側の主張に沿った合意に導こうとしていることも間違いのないところであり、トランプの主眼はウクライナの安全よりむしろ米国にとっての経済的利益にあると考えた方が分かりやすい。

 3月18日にプーチンとの間で「エネルギー施設への攻撃停止」に限定した停戦で合意したことも、このことと関連している可能性がある。トランプ政権が、①ロシア側の主張に沿った解決と、②米国による経済的利益確保の二つを基本方針としている場合には、いずれかの段階で必ずロシアに対する制裁の緩和が必要になってくる。トランプ政権による停戦調停は、ロシアによる侵略行為を不問にしたままの制裁緩和に向かう危険性を孕んでいる。

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