カタールW杯からの変化
”第二次・森保ジャパン”がカタール前と異なるのは目標設定が高くなっていることに加えて、戦術的なアップデートが見られることだ。元日本代表の名波浩コーチと前田遼一コーチをスタッフに加えた森保監督は世界が相手でも、試合の主導権を握るべく、4バックでスタートしながら流れの中で3バックなどに可変するスタイルにトライした。その後、しばらくして森保監督はサンフレッチェ広島を三度のJ1制覇に導いた時のシステムである3-4-2-1にシフトするが、この段階から試合の流れの中で可変システムを取り入れていたことが、3バック導入をスムーズにしたことを森保監督は明かしている。
代表活動は試合までに準備期間も少ないこともあり、カタール後のスタートとなった23年3月のウルグアイ戦とコロンビア戦では手探り感が否めず、2試合ともにポゼッション(ボール支配率)は相手を上回ったものの、ウルグアイ戦は4本、コロンビア戦は7本とどちらも相手のシュート数を大きく下回った。しかし、試合を重ねるごとに攻守が噛み合い、”第二次・森保ジャパン”5試合目でドイツ戦の大勝に繋がった。
24年1月のアジアカップは二次予選を含み8連勝中で、優勝候補の大本命とされたが、準々決勝でイランに敗れて、3大会ぶりのアジア制覇を逃してしまう。そこで大きな課題として挙げられたのが、ロングボールの対応だった。そして高い位置からのプレスがうまくはまらない時に、守備が後手を踏んでしまうシーンも見られた。森保監督は二次予選の第3戦となるミャンマー戦で、後半途中から3-4-2-1のシステムを使った。
そして同年6月のミャンマー戦でスタートから3バックを採用すると、二次予選のラストとなるシリア戦ではスタメン9人を入れ替えて、左右のウイングバックを中村と堂安律という攻撃的なセットで、ミャンマー戦に続く5-0の勝利を飾った。この試合では後半から従来の4-2-3-1に戻したが、最終予選を3-4-2-1で戦うことを森保監督に決断させる、大きな自信となる試合だった。
”三笘の1ミリ”を生んだフォーメーション
左右ウイングバックに攻撃的なタレントを起用する3バックは、衝撃的な2-1の逆転勝利を果たしたカタールW杯のドイツ戦の後半で、試合の終盤に”左右の槍”とも言える伊東純也(スタッド・ランス/フランス)、三笘薫(ブライトン/イングランド)を両翼に配置して、逆転に繋げており、スペイン戦では後半スタートから同じ形で再び逆転勝利に結び付けている。特に田中碧(リーズ/イングランド)による2点目を三笘がアシストしたシーンは”三笘の1ミリ”として、カタールW杯のハイライトに必ず出てくるエピソードになった。
そうは言っても、カタールW杯ではあくまで勝負をかける”ファイヤーフォーメーション”であり、北中米W杯のアジア最終予選で固定的に用いられることを予想することは現地で取材していた筆者も予想できなかった。しかし、この決断が最終予選での圧倒的な結果に繋がっていく。右サイドは堂安と伊東、左は三笘と中村がポジションを争いながら、どちらかがスタメン起用されれば、もう一人は強力なゲームチェンジャーとして途中投入される。
彼らのウイングバック起用に加えて、2シャドーと呼ばれる二列目の2人も久保建英(レアル・ソシエダ/スペイン)、南野拓実(モナコ/フランス)、鎌田大地(クリスタル・パレス/イングランド)といったタレントを擁するが、彼らに加えて伊東、三笘、堂安、中村の4人も2シャドーでプレーすることができる。つまり状況によっては左サイドでドリブラーの三笘と中村を同時に起用するシステムなども可能だ。