さらに、このメモは台湾政策のみならず米国の国防政策全体の優先付けを示しているようなので、ダメージは一層大きい。その戦略はいまだ概念に留まるゴールデン・ドームと言うミサイル防衛システムによる米国本土防衛を最優先事項とし、そのために南北の軸、すなわち、ロシアと中国の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の経路となるグリーンランドからパナマ、そして、南米大陸最南端のホーン岬を結ぶ、軸の防衛である。
従来の北大西洋条約機構(NATO)―北米―アジアという東西の軸については、中東、アフリカから引き揚げ、ロシア対処は欧州に任せ、中国の覇権防止のためインド太平洋に集中する。問題は、中露が米国撤退の真空に進出することだ。また、ロシアには太平洋正面もあり、中国と対抗するためには、太平洋方面でロシアとも対峙する必要がある。
米国やトランプは信頼できるのか
最後に言えば、米国の信頼性低下の影響である。ウクライナに対してあれだけの「弱い者いじめ」をし、原理原則無くロシアに近付く米国を、国防長官が訪問するだけで、フィリピンのような国が信頼できるだろうか。米国の対中取引の駒にされるとの心配は消えない。
今回のヘグセス国防長官のアジア歴訪では、グアム訪問の際のミクロネシア連邦ヤップ島への20億ドルのインフラ投資をこれからアジア方面の米軍は第二列島線に引いていくことの兆候として注目する向きもある。そういえば、在韓米軍はどのように扱われているのか。言及が無いのは逆に不気味だ。
また、このメモにはヘグセス長官はサインしているがトランプ大統領はサインしていない。要は、紙で何が書いてあろうが、人間は最後には人や国が信頼できるかどうかで行動する。

