生涯で見れば「得」となる世代はない
ただし、これはあくまでも一時点での世代別の損得計算でしかないことに留意しなければならない。正確には、経済成長率や利子率の大きさ、また社会保険料から消費税に社会保障の財源を切り替えることがマクロ経済や家計の所得・資産計画、出生選択等に与える効果を含めて、経済学で言うところの一般均衡効果を含めて試算しなければならない。
内閣府「中長期の経済財政に関する試算(令和7年1月17日経済財政諮問会議提出)」過去投影ケースの賃金上昇率、消費者物価上昇率、名目長期金利を用いて、ごく機械的に単純化した試算を行った。社会保険料や消費税率が将来にわたって現状を維持し、ほぼ平均寿命に該当する85歳まで生きるとすれば、現在の高齢世代やその予備軍世代はもちろん、すべての世代で「損」をすることになることが分かった。なお、寿命が延びれば伸びるほど「損」は大きくなる。
したがって、本稿の機械的な試算結果を前提とすれば、社会保険料を消費税に置き換えることで見た目の手取りは一時的には増えるかもしれないが、生涯トータルで見た負担で考えれば、必ずしも「得」になるとは限らない結果も生じ得るということになる。早い話、社会保険料を消費税に置き換え、全世代で負担するということは、現状のネズミ講的な賦課方式の社会保障制度の延命措置に他ならず、「損」を将来にわたって膨らませるだけでしかない。政治家も有識者も数値に基づいた、地に足のついた議論をする必要があるだろう。
現時点の手取りを増やすだけではなく、生涯トータルの負担を軽減しようと思えば、負担額をそのままにして負担方法を変えるだけでは不十分で、給付額を減額するなどして負担額そのものを削減する必要がある。その場合には、今度は生涯で見た受益が減ることに留意しなければならない。
目先の議論より社会保障制度の再構築が必要
本稿の試算はかなり粗いのは確かである。しかし、最近巷を賑わせている社会保険料の引き下げについては、一時点での引き下げに止まり、かえって生涯負担が重くなるなら余り意味はない。かと言って生涯で見て負担を減らすとなれば、受益と負担の関係を抜本的に見直すことが不可欠であり、政治的な合意を得る難度は格段に高くなるだろう。
結局、異次元の少子化、高齢化が進行する中で、目先の手取りを増やす議論より社会保障制度全体を俯瞰した受益と負担の構造改革こそが不可欠なのであり、持続可能な社会保障制度の再構築が必要だ。

