中国の農産物輸入減少分を日本に置き換えたい
145%という極めて高い相互関税に対し、中国はアメリカからの最大の輸入農産物であるトウモロコシや大豆に輸入制限を課して対抗している。アメリカ側は、対中輸出減少分を日本など中国以外の他国に振り替えるよう要求して来るだろう。
かつてアフガニスタン戦争でソ連へ大豆の輸出制限をした結果、アメリカは、ソ連の市場を失い、ブラジル、アルゼンチンは大輸出国に育ってしまった。アメリカはそのことを認識しているはずだが、実際には歴史に学ぼうとしない。
他方、日本のコメ輸入解禁も話し合われたガット(関税貿易一般協定)の多国間交渉ウルグアイ・ラウンド(UR)交渉での経験もあるから、アメリカは、「日本のコメは、いわば聖域であり、関税交渉の例外作物であって、日本は、絶対に譲らないだろう」との見通しも共有しているはずである。
従って、アメリカの次なる作戦の中には、「コメ以外の何かに交渉目標を絞り込むアイデア」が浮上していると思われる。同時期に米国通商代表部(USTR)が米国企業の輸出や投資に対して障壁となる外国の貿易慣行などを指摘する貿易障壁報告書を公表したのはそういう背景があるのだろう。そこでは、日本のコメや魚介類への高関税を批判し、是正を求めている。
中国による米国産トウモロコシ輸入激減、アメリカ国内では化石燃料採掘の拡大とバイオマス燃料消費の減少が起きており、トウモロコシの需要減少の可能性が最も高い。一方、日本のバイオマス計画では、ガソリンにトウモロコシなどを原料とするバイオエタノールを10%混ぜた「E10」の導入目標年次が2030年(現行は3%の「E3」が大半)とされているが、これの繰り上げ加速化を図れば、米国産トウモロコシないしバイオエタノール輸入の引き受け拡大にも余地があるとみられている。
また、国家貿易の小麦については、日本政府が自由度を選択できる余地があると判断できる。USTRも指摘する「不透明な国家貿易」を逆用し、実利をとることもできる。
ただし、大豆の輸入拡大は難しいだろう。最新の「食料・農業・農村基本計画」でも生産拡大、自給率向上の主要作物で、バイオマスへの逃げ道も狭く、遺伝子組み換えに関する消費者の不信も強い。アメリカ中西部、南部の政治上の地位とも関係するトウモロコシ(またはトウモロコシ由来のバイオマス燃料)が候補になるのではないか。
他にもアメリカは、牛肉の危険部位の除去、生鮮ジャガイモの輸入拡大など「非関税障壁」の緩和もあきらめてはいない。
日本米輸出拡大への扉に
アメリカ米の輸入拡大およびアメリカへの輸出だが、「決着がつかない、あるいは24%相互関税を実施」となれば、日本にとって現在香港に次いで第2位のコメの輸出先国であるアメリカとの関係で甚大な影響が生じるのは明らかである。
日本政府が掲げているコメの輸出戦略は、30年までに現在の8倍に当たる35万トン(t)、玄米なら40万t、そして50年には100万tをもくろんでいるが、その前提は、コストが9500円/60キログラム(kg)程度、公的助成の仕組は現行と変えず、生産性の高い輸出専用団地でコストダウンという。これは、容易なことではない。この際、コメ政策の抜本的な改革が伴わなければ難しい。
しかし、国際市場での価格競争と生産の継続を可能とする「直接支払い」が導入されれば、輸出先をアメリカだけではない全世界を対象にできるかもしれない。
