2025年12月6日(土)

革新するASEAN

2025年5月23日

売りに出てない案件をどう買うか?

 そのポイントは3つの視点でPDCAを回すことである。それは①短期・中期・長期における明確なゴール設定(あるべき姿のビジョン確立)、②それを実現するためのターゲット選定とインテリジェンス、③インテリジェンスを元にしたプレ・ディール戦術の実践という3本柱である。

 まず①について異論はないであろう。自分が何をするのかが明確でない状態でM&Aなど遂行できはしない。②に関しては、①を実現するためのターゲットをこちらから逆指名することである。その時点で、ターゲットが「売却モード」に入っている必要はない。あくまで買い手側の目線で、「ここが買えたらいい」と願う先を挙げることである。

 これにより、まず「出物M&A」から一歩踏み出すことになる。そうは言っても売り物ではないのだから、いくら買いたいと言い続けたところで、実現可能性ゼロの希望である。ではどうするか。そこでインテリジェンスという高度な情報戦略が必要になってくるのである。

「買うべきを買う」というパラダイムシフト

 情報戦略と言っても、特別なことではない。ターゲットとそれが属するセクターの競争環境を徹底的に調べ、そこからターゲットとの間にM&Aが発生する蓋然性を確かめる作業のことである。このような過程で、我々のようなアドバイリー会社がマーケット・デューデリジェンスを代行することもある。仮に買いたい先が十分に絞り込めていない場合、アドバイザリー会社が調査を通じて、買うべきターゲットのランキング作成のサポートをすることもある。

 M&Aが発生する蓋然性の発見はこのフェーズが鍵なのであるが、残念ながら紙面の関係で次回の解説とする。しかし私が強調したいのは、出物M&Aの追求とは一線を画し、ゴール実現に資するターゲットを自ら発掘し、そしてM&A発生の蓋然性を見出そうとしている点である。このアクションこそが、「買うべきを買う」というパラダイムシフトの1丁目1番地なのである。

 続く③は、M&A発生の蓋然性が見出せたターゲットに対し、様々なアングルにおける直接の対話・議論を行うことでディールを進められる確証を得るプロセスである。様々なアングルとは、ターゲットの事業計画やそれに対する買い手側の付加価値の提供に関する議論、プライスギャップに対する初期的な交渉、ディール・ストラクチャーに対する共通認識構築、そしてNBO提出(Non-Binding Offer:法的拘束力を持たない意向表明書)や、タイムラインなどの議論が含まれる。やはり紙面の関係で、それぞれの内容の詳細は次回以降での解説とする。


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