極右政党の支持率がCDU・CSUを追い抜く
だがメルツ氏の朝令暮改は、すでにCDU・CSUに対する支持率を減らしている。世論調査機関イプソスが4月9日に公表した世論調査結果によると、CDU・CSUへの支持率は24%で、AfD(25%)に追い抜かれた。全国規模の世論調査でAfDへの支持率がCDU・CSUを抜いたのは初めてだ。CDU・CSUへの支持率の下落には、財政政策の突然の変更も影響している。
ドイツの憲法には、連邦政府にGDPの0.35%を超える財政赤字を禁止する債務ブレーキという規定がある。メルツ氏は、選挙前には「債務ブレーキを修正しない」と発言していた。これに対しSPDは選挙前から債務ブレーキの修正を求めていた。
ところがメルツ氏は連邦議会選挙後の3月5日に公約を破り、債務ブレーキの修正を発表した。憲法を改正して、GDPの1%を超える防衛予算とインフラ特別予算5000億ユーロ(80兆円)については、債務ブレーキの適用外とした。
この公約破りは、CDU・CSUに対する有権者の不信感を強めている。ドイツの公共放送局ZDF(第二テレビ)が3月21日に公表した世論調査結果によると、回答者の73%が「メルツ氏は債務ブレーキの修正によって、有権者を騙した」と答えた。CDU・CSUを支持する回答者ですら、44%が「メルツ氏に騙された」と答えている。
メルツ氏は債務ブレーキに関する方針を転換した理由について、「選挙後にSPDとともに連邦政府の財政状態を詳しく調べたところ、公表されていた以上にひどい状態であることがわかった。したがって、ドイツ経済をよみがえらせるには債務ブレーキを修正する以外に方法はなかった」と釈明している。
こう考えると、メルツ氏を傷つけたのは1回目の投票での落選だけではない。政策の180度の変更や連立政権内のコントロール不足も痛手となっている。
これらの世論調査の結果は、大連立政権の獅子身中の虫であるSPD左派のために、今後もメルツ氏にとって困難な局面が生じる可能性が強いことを示している。