2024年11月25日(月)

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2014年4月18日

繰り返し否定される旧来型プリンセス・ストーリー

 『アナと雪の女王』に話を戻そう。

 この映画の真価は、アナと男性たちとの関係に見られる。エルサの戴冠式の日、アナは出会ったばかりの他国の王子・ハンスと恋に落ち、その日のうちに結婚を決める。エルサはこの結婚に反対したことがきっかけで、魔力を暴発させてしまうのだった。

 【以下、映画の後半部分に触れるので注意】

 後半、アナはエルサの魔力でどんどん体が弱っていく。そこで必要なのが“愛”だと考えた彼女は、ハンスのキスを求めていく。しかし、そこでハンスは豹変し、キスを拒否。13人兄弟の末っ子の彼にとって、そのままアナが弱って死ねばこの国を乗っ取れると考えたのだった。旧来型のプリンセス・ストーリーは、この段階でまず否定された。

 体が弱るアナを助けるのは、このハンスでも、仲良くなったクリストフでもなかった。誰あろう、それは氷の女王である姉のエルサだった。つまり、この“愛”とは、決して恋愛ではなく、姉妹愛のことだったのである。これが2度目の旧来型プリンセス・ストーリーの否定だ。異性愛ではなかったのだ。

 もちろんこの後、アナにはべつの恋愛が訪れることが描かれる。その相手はもちろんクリストフなのだが、その描写はちょっとだけ。しかも、恋愛の成就というよりも恋愛の始まりを描く。キスするときクリストフがオロオロするくらいに! これが3度目の旧来型プリンセス・ストーリーの否定である。

 ここで明確に描かれたのは、王子様や男性のキスがもはやプリンセス・ストーリーの決定打にはなりえない、ということである(ちなみに、ディズニー映画ではじめて黒人をヒロインに置いた2009年公開の『プリンセスと魔法のキス』でも、ディズニーはキスの意味を変えていたりする)。

 一方、このアナとエルサの関係を旧来型プリンセス・ストーリーの男女役割を置き換えたものだという意見もある。つまり、アナが王子でエルサがお姫様だとする解釈だ。しかし、それはかなり疑問が残る。

 この映画は日本語題にもあるように(原題は"Frozen")、アンデルセンの童話『雪の女王』を下敷きとしている。しかし、要素は残しているものの、その内容は大きく異なる。そもそも『雪の女王』はプリンセス・ストーリーでもなんでもないからだ。

 原作は、氷の棘を刺されて心を閉ざした男の子・カイが雪の女王に連れ去られ、そんな彼を幼なじみの女の子・ゲルダが助けに行くというお話。そもそもこのお話は、女が男を助けるという話なのだ。


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