さらにこの原作が『アナと雪の女王』になる過程で消されたキャラクターは、男の子のカイである。ただ、彼のエピソードや役割は、「心を閉ざす」という点で雪の女王であるエルサに、「氷で心を刺された」という点ではアナに割り振られている。つまり、厳密にはカイはいなくなったのではなく、分割されたのである。
それらを踏まえると、あの姉妹の関係を旧来型の男女関係の移し替えだと見なすのは、かなり見当違いだということがわかる。
ちなみに1957年に冷戦期のソ連で『雪の女王』はアニメ化されている。これはアニメーション史では必ず参照される古典的名作として知られ、宮崎駿をはじめファンも多い。ディズニーがこれまで『雪の女王』をアニメ化しなかったのも、おそらくこのアニメがあったからだと思われる。そこで明確に描かれているのは、山賊少女の汚れた心やカイの凍りついた心が、優しい少女・ゲルダによって溶かされること。つまり、大きく翻案したとは言え、『アナと雪の女王』にはこの『雪の女王』の根本的なテーマがしっかりと踏襲されているのだ。
「再帰的王道」のプリンセス・ストーリー
映画が終わると、エンディングでもう一度「Let It Go」が流れる。前半ではやけっぱちに聞こえた曲は、エルサがお城で魔法とともに生きるゆえの「ありのままでいい」という意味に変わる。ヒットの要因は間違いなくこの主題歌だが、ちゃんとそれがこの映画のテーマとも結びついているのである。
言うなれば、『アナと雪の女王』とは「再帰的王道」と呼べるプリンセス・ストーリーだ。「お姫様の物語」という軸を維持したまま、その意味内容を見事に現代でも通用するように翻案した。そこでは、過去の遺産を決してスポイルしてはいない。プリンセス・ストーリーという枠組みを残しながら、いまの時代を生きる老若男女が納得できるかたちに変換している。これは、見事というほかない!
最後に──。
『アナと雪の女王』の上映前に流れたのは、7月5日に公開される実写ディズニー映画『マレフィセント』の予告だった。これは『眠れる森の美女』の魔女マレフィセント(アンジェリーナ・ジョリー)を描いたダークファンタジーのようだ(http://youtu.be/DhgTpcykNcA)。
『眠れる森の美女』とは、お姫様が魔女によって16歳の誕生日を迎えた日に眠りについてしまい、王子様のキスで目覚めるという童話である。しかし、予告を見ると、どうもそんな話になりそうにない気配でいっぱい。お姫様は、どのようにして目覚めるのか、それとも目覚めないのか!?
きっとこの作品にも現代のディズニーがしっかり刻印されているはずである。
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