一気に個人を標的に抹殺
今回の攻撃で衝撃的なのは軍幹部や核科学者らの住居を攻撃し、一気に抹殺したことだ。モハマド・バケリ参謀総長、革命防衛隊のホセイン・サラミ司令官、アミル・ハジザデ空軍司令官、ゴラマリ・ラシド参謀次長、イラン核エネルギー庁のフェレイドン・アッバシ前長官らだ。
ハメネイ師の軍事顧問であり、腹心のアリ・シャムハニ元海軍司令官も殺害された。同氏は対米交渉のお目付け役でもあった。ハメネイ師はバケリ参謀総長の後任にアブドルラヒム・ムサビ氏を、革命防衛隊のサラミ司令官の後任にムハンマド・パクプール氏をそれぞれ任命した。
ネタニヤフ氏は暗殺などで対応してきたこれまでの「裏の戦争」を逡巡なくかなぐり捨て、公然と個人を標的にした殺害作戦を実効したわけだ。イランの軍事機構の幹部が大幅に後退することで、混乱は避けられない。また核開発を担ってきた科学者らの殺害もイランにとっては手ひどい打撃だろう。
トランプを巻き込む
イラン攻撃には航空機の作戦を完遂させるため大型の空中給油機が必要とされ、だからこそイスラエルは米国の軍事的な協力が必要だった。今回トランプ政権が事前にこの空中給油機を供与したかどうかは不明。ルビオ国務長官は今回の攻撃を「イスラエル単独の作戦」であることを強調している。
米国のメディアなどによると、ネタニヤフ氏は数カ月前トランプ氏に対し、協力を要請した。しかし、トランプ氏はイランとの外交交渉中という理由で断った。ネタニヤフ氏は6月9日にトランプ氏と電話で会談、この際に攻撃計画を通告したとみられている。
また聖都コムの近くの山中にあるフォルドウの核施設の攻撃には強力な地中貫通弾が必要とされていたが、米国は爆弾の供与を断ったようだ。ネタニヤフ氏の思惑としては、単独でもイラン攻撃を敢行した実績を米国に示し、最終的には米国も軍事作戦に巻き込みたいと考えているようだ。イランは10個の核爆弾を製造可能な濃縮ウランを保有しており、今回の攻撃で核製造を遅らせることができたのかどうか、その成否が問われている。
