2025年12月6日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年6月24日

 短期的にはハード・パワーがソフト・パワーよりも強いが、長期的にはソフト・パワーが勝利を収める。また、ソフト・パワーが短期的に重要なこともある。もしもある国に魅力があれば、他者の行動を変えさせるのにアメやムチを使う必要性は減る。同盟相手が信頼できると感じれば、その指導力に従いやすくなるだろう。トランプ政権は、各国が米国に寄せる好感度、信頼性を損ね、その空隙を中国が埋めようとしている。

 トランプのような西側におけるポピュリストの出現はグローバリゼーションの産物である。米国は、最大の経済大国として、技術革新から利益を得てきた。また、移民は技能を持った人をもたらすことによって受け入れ国に経済的利益をもたらす。一方、技術の変化は、多くの人の職を奪い、移民の増加は、強い反発を招く。

 第二期トランプ政権は、貿易の不均衡や制裁とリンクさせた強制的なハード・パワーに近視眼的にとらわれ、米国主導の国際秩序を弱めている。トランプは、同盟国がただ乗りしていることのコストに執着しすぎ、米国の世界的指導力に目が行っていない。トランプには米国の強さが相互依存の中にあることが分からず、米国を再び偉大にするのではなく、悲劇的にも弱さに賭けている。

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批判に足りない視点

 5月6日に死去したジョゼフ・ナイの遺稿ということで注目されているが、実際にはロバート・コヘインとの共著による長文の論説である。この二人は、1977 年の『パワーと相互依存』(ミネルヴァ書房から邦訳あり)の共著者で、経済的な相互依存関係がパワーの源泉となり得ることを指摘した。これは今日の経済安全保障論に繋がる議論である。

 この論説では、相互依存、パワー、グローバリゼーション、国際秩序と幅広い論点に触れつつ、第二期トランプ政権による外交を手厳しく批判している。

 相互依存については、貿易相手国との輸出、輸入の多寡が単純に力関係に反映されないことも指摘している。相互依存関係をパワー行使の手段とする際、脆弱性は相互的なものであり、どちらがより「痛み」を感じるかは、ケース・バイ・ケースとなろう。

 パワーについての指摘は、ソフト・パワー論を展開したナイの得意分野であるが、パワーの源泉として、強制、経済的利得と並んで魅力を掲げることには疑問もある。ナイは、ソフト・パワーを論ずる際、国への好感度や魅力に着目するが、それらが国家の行動への影響力に直接繋がるわけではない。例えば、ある国の国民が米国の音楽、スポーツ、映画が好きだったとしても、その国の政府が米国の政策を支持することに繋がるわけではない。


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