2025年7月16日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年6月24日

 2025年6月2日付フォーリン・アフェアーズ誌は 、トランプ大統領が米国のパワーの源泉を損なっていると指摘するロバート・コヘインとジョゼフ・ナイによる論説を掲載している。なお、この論説は5月6日に死去したナイの遺稿として紹介されている。

(ロイター/アフロ/gettyimages)

 トランプ大統領は世界に米国を押しつけていると同時に、米国を世界から引き離そうとしている。トランプは、グリーンランドの支配を巡ってデンマークを脅し、パナマ運河を取り返すと主張した。移民を巡ってカナダ、メキシコ等を関税で脅した。トランプが貿易相手国を関税で圧力をかけていることは、相互依存の現在のパターンが米国にパワーを与えていると信じていることを示している。

 トランプが米国の強さに気づいていることは正しいが、トランプはその強さを基本的に間違った形で使っている。相互依存を攻撃することで、トランプは米国の強さの基盤を崩している。

 秩序は、各国間でのパワーの分配、各国に影響を与える規範、それを支える制度によって成り立っている。トランプ政権は、これら全てに攻撃を仕掛けている。トランプは、方向違いの努力を重ねることで、ヘンリー・ルースが「米国の世紀」と呼んだ米国による支配の時代をあっけなく終焉させるかもしれない。

 我々(コヘインとナイ)が 1977 年に『パワーと相互依存』を書いた際、我々はパワーについての伝統的概念を広げたいと考えた。当時、パワーを冷戦時の軍事的側面で見る者が多かったが、我々は、経済的相互依存が非対称的であることで、依存度の少ない国がパワーを持つことを指摘した。

 しかし、非対称の貿易関係が経済の全ての側面を表しているわけではない。中国の場合、中国はアップルやボーイングといった中国で活動する米国企業を罰することや、レアメタルの供給を止めることで米国に圧力をかけることができるので、脆弱性は相互的なものである。

 トランプ政権は、パワーの主要な次元を見過ごしている。パワーとは、他者に自らが望むことをさせる能力である。

 この目的のために、強制、支払い、魅力と三つの方法がある。最初の二つはハード・パワーであり、三つ目がソフト・パワーである。トランプは、米国のハード・パワーを過度に重視し、魅力を無視することで、米国の強さの主要な源泉をないがしろにしている。


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