2025年12月5日(金)

モノ語り。

2025年7月12日

 そのお店は、東京銀座・木挽町仲通りの一角にあります。

 「Ginza Yoshizawa EST1924」という金看板。1階が精肉店、2階はすき焼きなどの「肉処」、3階が肉割烹で、ランチ時に訪れると、外国人も含めて行列ができていました。それもそのはず、東京食肉市場の仲卸の老舗「吉澤畜産」が展開しているからです。

銀座 吉澤「缶バーグ」(鈴木優太 以下同)

 今回、紹介するのは、その吉澤畜産の「缶バーグ」。このクオリティーは衝撃的です。3代目社長の吉澤直樹さんに、お話を聞きました。

 「大学卒業後の修業時代、神戸で働いていたとき、阪神淡路大震災を経験しました。よく覚えているのは、先輩の奥様が寮に持ってきてくださった豚汁です。その中にカボチャとサツマイモが入っていて、その甘さがなんとおいしかったことか、本当に忘れられません。非常時の『食』は、特に人の記憶に残るものだと思います。その後、東日本大震災が発生しました。その頃に、弊社の『黒毛和牛ハンバーグ』を製造していた山形県のサカタフーズさんから『缶に入れたハンバーグ』をつくる計画があると聞いて、参画しました。『缶』であれば、災害時にもお肉をおいしく食べていただくことができると考えたからです」

 味とクオリティーの高さはどこから来ているのでしょうか。

 「まず、サカタフーズさんの焼き技術が非常に優れていることがあります。また、牛肉100%にすると、価格が高額になってしまいます。そこで豚肉とのあいびきにしたのですが、そのバランスの調整が簡単ではありませんでした。バランスが悪いと練り物のようにかたくなってしまうのです。試行錯誤でたどり着いたのが、松阪牛肉36%という比率でした」

 「松阪牛」といえば、今や日本を代表する銘柄ですが、吉澤さんの祖父で創業者の一一さんたちの尽力の賜物でもあるのです。戦前には「伊勢牛」と呼ばれていた牛を東京の食肉市場に運び、そのクオリティーの高さから「神牛」と呼ばれるようになったそうです。

 「歴史の話を聞く前に祖父は亡くなりましたが、あるとき私の息子が図書館で明治100年記念に出版された『東京都中央区人物銘鑑』で『曽祖父さんを見つけたよ』と。私は親父から昭和2(1927)年創業と聞いていたのですが、銘鑑には大正13(24)年と書いてあって驚きましたね」


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