中国が提案する「新型大国関係」
上述の矛盾を解くためのキーワードはやはり、「新型大国関係」という言葉ではないかと思う。
周知のように、「新型大国関係」というキャッチフレーズは、習近平が国家主席に就任してから米国に持ちかけたものである。中国が説明するその内容とは、要するに「米中両国が衝突を避け、双方の核心的利益を尊重し、ウィンウィンの関係を構築しよう」というものである。
文言通りに捉えれば特に問題はないように思われるが、一番の問題は、中国が尖閣諸島に対する領有権や東シナ海・南シナ海の広範な海域に対する覇権を自分たちの「核心利益」だと主張し、それに対する米国の「尊重」、すなわち容認を求めている点である。そして米国が中国の「核心利益」さえ認めてくれれば、中国も太平洋地域における米国の利益を「尊重」=「容認」する、ということなのである。これが中国の持ち出した「新型大国関係」という言葉の真意であり、中国は米国に対して太平洋の支配権をめぐる「棲み分け論」を提示したわけである。
その具体的な内容は要するに、太平洋というものを二分割して、東太平洋は米国の支配に委ねるが、その代わりに西太平洋に対する中国の覇権を米国が認める。もちろん中国側からすれば、このような棲み分けさえできれば、米中両国が衝突を避けることができるし、「ウィンウィンの関係」を構築することもできると考えているのである。
昨年6月、習主席は訪米してオバマ大統領と会談した際、冒頭から「太平洋は広い。米中両大国を十分に受け入れる余裕がある」との言葉を持ち出した真意はまさにここにあろう。「太平洋を山分けして仲良くしよう」というのが、習主席の提唱する「新型大国関係」の最大のポイントなのである。
しかしもし、米国がこの通りの「新型大国関係」を受け入れて中国の「核心利益」を認めてしまえば、東シナ海と南シナ海を含めた西太平洋全体は、中国の支配する範囲下におかれることとなろう。その地域に関しては米国の勢力が排除され、文字通りアジアを失うのである。
もちろん米国がこのような中国の一方的な「新型大国関係」をそのまま受け入れるはずもない。アジア太平洋地域というのは、米国が世界の大国としての影響力を保っていくための最後の砦であり、かつて太平洋戦争において10万人の米国兵の命と引き換えに守りきった米国の「生命線」でもある。したがって、米国はシリア問題で尻込みすることがあっても、クリミア問題で弱腰を見せることがあっても、アジア太平洋地域だけは中国の好き放題にさせたくないのである。