中国の覇権主義を阻止ながら、
安定した関係を保つ
その一方、アジア太平洋地域は米国にとって大変重要な地域であるからこそ、アジア最大の政治と軍事大国である中国も当然、米国にとって丁重に取り扱わなければならない重要な存在である。それに加えて、両国間の経済関係の緊密化によって中国は米国経済にとっても欠かせない存在となっている。
つまり、中国の西太平洋支配を許すわけにはいかないが、米国にとっても、中国との安定した大国関係の構築は非常に重要な外交課題であろう。したがって、習主席が米国に対して「新型大国関係」を持ちかけて以来、オバマ政権はそれを頭から拒否するのでもなく、むしろ中国の呼びかけに応じていわば「新型大国関係」の形を積極的に模索するような姿勢を示している。
たとえば米国のバイデン副大統領は習主席と昨年12月4日に会談した際、「米中関係は21世紀で最も重要な2国間関係であり、この2国は信頼と積極的な意志に基づいて行動しなければならない」と明言したのも、オバマ大統領は今年3月にオランダで習主席と会談した時に「国家関係の新しいモデルを追求していく」と語ったこともやはり、米国は中国との安定した関係の構築に多大な関心をもっていることの証拠であろう。
しかしそれでも、米国は決して中国が意図する通りの「新型大国関係」を受け入れるつもりはないし、それを受け入れた痕跡もない。実際、米国の大統領や副大統領あるいは国務長官から、中国の定義する「新型大国関係」に明確に賛同する発言があったことは一度もない。前述のように、西太平洋の支配を企む習主席の「新型大国関係論」は到底米国の容認できるものではないからである。
そうすると、米国に迫られた大きな外交的課題の一つはすなわち、中国の覇権主義を阻止ながら中国と安定した関係を保つという2つの相反する前提の下で、中国との「大国関係」をいかに定義してそれを構築していくかである。そして本論の視点からすれば、オバマ大統領のこの度のアジア歴訪は、まさにこの重大な外交課題に対する米国の理念と戦略を明確に示したものである。
習近平が下すべき「最後の判断」
これまで見てきたように、オバマ大統領は日本への訪問においては「尖閣防衛」に関する米国の義務を明記した共同声明を発表した。フィリピン訪問では新軍事協定を調印させて米軍のフィリピン回帰を実現した。まさに中国という国を標的にしたこの2つの画期的な行動をとることによって、オマバ大統領と米国政府は習近平政権に対して、一つの明確なメッセージを送ったはずである。