懸念すべきは感情的な混乱
他方で、ヨーロッパ人はトランプに懐疑的である一方で、米国の安全保障政策への信頼性やトランプ政権後の大西洋横断関係については比較的楽観的である。つまり米欧関係の歴史的つながりから米国の欧州での軍事的プレゼンスは続くという見方だ。再三に及ぶトランプの米軍の欧州撤退の脅しにもかかわらず、調査対象国のすべてで「米軍の欧州プレゼンスの維持は可能」、また「米国との貿易摩擦も回避できる」という結果が出ている。
加えて、「ウクライナは領土的譲歩」も「対露経済制裁解除」も、そのいずれもするべきではないというのはすべての国で過半数を超えている。「ウクライナ軍事支援の撤廃」についてもハンガリー以外のすべての国で否定だ。
そこに見えるのは、欧州諸国の人々の意識では、ウクライナへの支援の一方で、米国への依存と楽観主義だ。そして脅威認識と危機感が高まっているとはいえ、切迫感は国によって違う。
また極右ポピュリズムの動向は欧州世論のかく乱要素となっているのは確かで、世論の分裂に寄与している。いざというときに世論が割れているというのはデモクラシーの常だが、その背景には白人主義ともいえる「欧州ナショナリズム」=欧州第一主義と排外主義が深く根付いていきつつある。あるいは歴史的復権を果たしつつある。
懸念すべきは、欧州国民内の感情的混乱である。「エリートvs庶民」「経済合理主義vs伝統文化アデンティティ」という「ふたつのヨーロッパ」への分裂の危機が次第に顕在化しているのだ。欧州の真の危機はそこにある。
