24年7月に開催された前回のNATO首脳会議において、米国は26年からウエスバーデン基地にSM-6、トマホーク、ダークイーグル極超音速ミサイルシステムを含む、射程460キロメートル(km)から深度2700km超の中距離ミサイルを配備すると発表した。これは冷戦終結後初の措置である。しかし今後のその措置がどうなるのか、明確ではない。
軍事的脅威に十分な能力をもたない欧州は他力本願の状態が続く。「戦略的自立」を唱えて、EUを中心に軍備に限らず経済・技術全般に至る再活性化を狙っているが、中国・インド・グローバルサウス諸国を競争者とする多極時代の今日なかなかその突出も難しい。英仏の核兵器における協力がこれにどれだけ寄与するのか注目に値する。
世論調査が示す欧州の政治的動揺
したがって欧州諸国ではやや複雑な感情が錯綜している。折からのプーチンやトランプらの権威主義的なポピュリスト指導者を支持する欧州極右ポピュリズムの台頭によって、欧州は分断の危機にも瀕している。
欧州外交評議会(ECFR)が本年5月にヨーロッパ12カ国、1万6440人を対象に実施した大規模な国際世論調査では、「時間稼ぎ」「様子見」の姿勢が全体として見て取れる。
トランプ支持派のシンクタンクであるヘリテージ財団のケビン・ロバーツ理事長は「私たちは第二のアメリカ革命の過程にある」、第二期トランプ政権は「革命のような衝撃」を欧州諸国に与えている、と論じた。わずか6カ月で、米国は自由民主主義の擁護者であることをやめ、非自由主義と経済保護主義の主謀者へと変貌を遂げた。同時に超大国アメリカの信頼度と威信は大きく揺れている。
第一に、欧州極右ポピュリズムは、国家主権の擁護者から国境を越えた「トランプ革命運動」の先鋒へと変貌しはじめている。第二に、欧州では軍事化が加速されている。EUは平和の機構から軍事的機構へと変貌しつつある。第三にトランプの「ヨーロッパ革命」は、矛盾と緊張を露呈させている。世論調査ではそうした傾向が浮き上がっている。
まずトランプ政権に対する評価は、どれもよくない。中国との競争政策(米中摩擦)についてはどの国も評価しない(bad job)。ウクライナ戦争もしかりだが、ハンガリー国民だけは「よくやっている(good job)」とするものの方がかろうじて過半数より多い。
アメリカに対する評価は、「米国政治制度は崩壊している」とするものが過半数以上を占める国は、ポルトガル(70%)、ドイツ(67%)、フランス(60%)、スペイン(59%)、イタリア(55%)、反対に「米国政治制度は順調に機能している」とする方が多いのは、ハンガリー(48%)、ポーランド(46%)、ルーマニア(53%)だ。ロシアに対する脅威から米国寄りの姿勢を維持する立場と、他方で米露権威主義体制への接近という矛盾した複雑な立ち位置の違いがそこにはある。
各国の政党別支持者の意見を見ていくと、「米国政治制度が順調に機能している」が過半数を占めるのは、Fidesz(フィディス、ハンガリー政権与党)、 PiS(法と正義、ポーランド)、 Fdi(イタリアの同胞、政権党)、Vox(「声」、スペイン極右)、 AfD(ドイツのための選択肢)などの伝統主義・極右ポピュリスト的政党支持者たちだ。従来の既成大政党である各国の保守派や中道・左派はトランプ政権を評価しない。
「ロシアからの攻撃」の脅威については、ポーランド(65%)、ポルトガル(54%)、ルーマニア(54%)、エストニア(52%)では国民の過半数が脅威感をもっているが、ドイツ (37%)、フランス(28%)、イタリア(27%)、ハンガリー(19%)、チェコ(19%)、デンマーク(17%)ではそれほど脅威感が強くない。対露関係の緊密度と地理的距離間の違いが脅威認識に反映されている。
