2025年12月5日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2025年7月20日

隣国について考える

ロシアについて 北方の原形
司馬遼太郎
文春文庫
726円(税込)

 『坂の上の雲』を書いた4年半、『菜の花の沖』を書いた3年の間、「ロシアとは何か?」を考え続けたという筆者が、その中で感じたことを記していく。日本人の多くは、おそらくロシアの歴史よりも、米国の歴史の方をよく知っているだろう。日本を開国させたのも米国だ。ただ、大砲をチラつかせ、それまでの慣例の長崎ではなく、江戸に直接乗り込んできた。一方で、同時期に日本との通商を求めたロシアのプチャーチンは長崎に行った。ロシアの歴史は「タタールのくびき」で知られる通り、苦難に満ちている。それが国の性質に大きな影響を与えている。隣国を知るための良書だ。

世界の謎を解く

新装版 間宮林蔵
吉村 昭
講談社文庫
1034円(税込)

 フランス人ラ・ペルーズ、イギリス人ブロートン、そして「日本周航記」を記したロシア人クルーゼンシュテルンによる調査によって、19世紀初頭、サハリンは半島であると認定されていた。それを覆したのが「間宮海峡」として名を残す間宮林蔵だ。栄光の一方で、「シーボルト事件」の密告者という濡れ衣を着せられる不運にもあった。融通の利かない人柄が影響したのではないかと想像してしまうが、そうした人でなければ大冒険は成し遂げられなかったはずだ。

旅をしながら考える

東京するめクラブ 地球のはぐれ方
村上春樹、吉本由美、都築響一 
文春文庫
1430円(税込)

 作家、エッセイスト、編集者の3人が各地を旅するうちの一つがサハリンだ。様々な角度からサハリンを切りとっていく。単行本が出たのが2004年。当時は石油・天然ガス開発で、町はバブルに沸いていた。舗装もされていない道路を高級車が走る様子は、19世紀の米国のゴールドラッシュを彷彿とさせる。成長すると大陸に渡るロシア人とは違い、固有のサハリン人をつくっていくのは韓国系の人たちではないかという指摘も興味深い。

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Wedge 2025年8月号より
終わらなかった戦争 サハリン、日ソ戦争が 戦後の日本に残したこと
終わらなかった戦争 サハリン、日ソ戦争が 戦後の日本に残したこと

1945年8月15日。終戦記念日として知られるこの日に、終わらなかった戦争があった――。樺太(現ロシア・サハリン)での地上戦、日ソ戦争である。
「沖縄が〝唯一〟の地上戦」と言われるが、北海道のさらに北、日本領「南樺太」でも地上戦があったことは広く知られていない。
8月9日以降、ソ連軍は、日ソ中立条約を一方的に破棄し、侵攻。8月15日を経てもなお、戦闘は終わらなかった。この間、多くの人が亡くなり、沖縄戦同様、死の逃避行や集団自決もあった。長らくサハリンに残留を余儀なくされ、ソ連崩壊後にようやく日本に帰ることができた人もいた。
終わらなかった戦争は戦後の日本に何を残したのか。また、現代においても、様々な困難が立ちはだかる日本とロシアの関係はどうなっていくのか。
未来を切り拓くために過去の悲劇を学ぶとともに、歴史の忘却に抗いたい。


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