銃をつかんだ上井戸が叫ぶ。
「亜以子が俺を殺そうとしたんだ」
(泣き崩れた亜以子が自室に戻る)
亜以子の部屋のドアからなかをうかがった増沢が、部屋に引き込まれて、亜以子が口づけをする。純白のローブが背中からするりと落ちて、何も身に着けていないことがわかる。
謎に満ちた亜以子の行動は、原作のなかでも作家の妻によってマーロウを幻惑する。読者がため息をつきそうになる魅惑のシーンである。
亜以子 「信じていたわ。あなたは必ず帰ってくるって」
(ドアをたたく音)
増沢は部屋をでる。亜以子のいう「あなた」とは誰なのか。
ナレーションも「無駄のない言葉」
上井戸家を乗用車で去る増沢は、「わからん」といった瞬間に、車はスリップして車道から草むらに突っ込むようにして止まる。
<敵とは戦うべきとは限らない。勝ち目のない敵であればなおさらのこと>
ナレーションもまた、セリフにも劣らず、そぎ落とされた無駄のない言葉である。
<小鳥が現れた>
いつものバーである。殺された妹の姉である。
世志乃 「いつも遅いの?」
増沢 「遅かったり、早かったり、そういう仕事ですから」
<小鳥は不穏な歌をうたい始めた>
大富豪の父・原田平蔵に会えというのであった。