2025年12月6日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年7月21日

 インドもダライ・ラマやチベット亡命政府に居住地を提供しているという点で極めて重要である。インドはダライ・ラマの存在を、中国に対する影響力の源泉と見なしてきたが、インドは中国を怒らせることを懸念している。

 欧州連合(EU)は6月、次期ダライ・ラマは「政府の干渉なしに」選出されるべきだと表明した。しかし、中国が次期ダライ・ラマとの公式接触に対して商業的制裁を科しているため、どの国もリスクを冒してまで次期ダライ・ラマと接触を図る可能性は低い。

 ダライ・ラマの発表は、後継者問題に関するすべての疑問に答えるわけでもないかもしれないが、多くのチベット人にとって、彼の発言は、真の課題、すなわち、自らのアイデンティティを体現する人物が逝去した後、いかにしてアイデンティティを維持していくのかという課題を浮き彫りにするだろう。

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「民主主義世界」の意志と能力を試す試金石

 上記の解説記事が指摘するとおり、今回ダライ・ラマが公にした「輪廻転生」による後継者選びは、まさに中国による強制と偽情報に抵抗する、「民主主義世界」の意志と能力を試す試金石となると考えられる。

 中国がダライ・ラマとの公式接触に対して科している経済制裁を恐れ、現ダライ・ラマ14世が2016年バラク・オバマ大統領との会談を最後に、世界の指導者と会談できていないことは、大変残念なことである。

 ただし、EUをはじめいくつかの民主主義国はチベットにおける人権侵害について声を上げており、ダライ・ラマの自治を求める姿勢を支持している。米国のトランプ大統領は、人権問題に関心があるとは思えず、また、米国際開発庁(USAID)解体と予算削減により、チベット人への支援も大きく削減となっている。今後、ルビオ国務長官および議会の動きに期待したい。


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