2025年12月6日(土)

はじめまして、法学

2025年7月30日

「心神喪失」状態での犯罪行為に対する減刑は妥当?

 読者のみなさんは、刑法39条をご存じですか? 次のような条文です。

【刑法39条】
1 心神喪失者の行為は、罰しない。
2 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。

 自分のした行為が違法かどうかを認識できる力、そして違法と認識した場合に、自分の意思で犯罪行為を思いとどまる力のことを「刑事責任能力」といいます。

 そして、この能力が完全にない状態が「心神喪失」、著しく低下した状態が「心神耗弱」です。そのような場合には、その人の行った行為を罰しなかったり、刑を減軽したりすることとなります。

 「39 刑法第三十九条*1」という映画があります。ある夫婦の殺害容疑で、堤真一演じる劇団員・柴田真樹が逮捕・起訴されます。

 本人は大筋で容疑を認めていますが、犯行時の記憶がなく殺意を否認しています。そして、温厚な柴田が突然変貌し、法廷でも意味不明の言葉を発したため、精神鑑定がなされることになります。

 柴田は、多重人格障害なのか、それとも芝居なのか。隠された過去と「刑法39条」の関係は──。そして、柴田の「私が本当に凶器を突き刺したかったのは、刑法39条だった」というセリフ──。

 この条文には、一定の難しさがあります。そもそも、犯罪をしたら処罰されるのが当然なのではないかという意見があります。

 実際に、無差別殺人の犯人の刑事責任能力が問題となる報道がされる度に、刑法39条を廃止して、一般の人と同様に処罰すべきであるとの声が高まります。

 また、精神障害者の主体性を尊重するという立場からも、刑法39条は精神障害者を差別的に扱う条文であると、その存在を疑問視する声があります。

 他方、十分な刑事責任能力がなければ、物事の善悪が判断できず、また、自分の行動を律することができません。その人に対して、一般の人と同様に適法な行為をすることを期待できず、非難を加えることは困難ともいえます。

*1 1999年公開、森田芳光監督。永井泰宇による同名小説『39【刑法第三十九条】』(角川文庫)が原作。刑法39条の規定を軸に、犯人と鑑定人による虚々実々のやり取りを描いた心理サスペンス。


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