一つ目は、サンクトペテルブルグ市勤務時代に様々なプロジェクトを介して「ローテンベルク兄弟」との知遇を得たことだ。ローテンブルグ兄弟は、60年代後半から70年代にかけ、サンクトペテルブルグの柔道クラブでプーチン氏の練習相手として青年期を過ごした。いわばプーチン大領領の「竹馬の友」といえる存在だ。
兄のアルカディは、ゼネコン会社ストロイガズモンタージュ(SGM)を興して、ガスプロムのパイプライン、ソチ五輪関連のインフラ(12年)、クリミア橋梁(16~17年)といった国家的インフラプロジェクトを次々に請負の上、実現してきたとされる(弟のボリスもSMP銀行やスポーツクラブ経営等で有名)。
そこには、スタロボイト氏が、連邦道路庁の長官として予算を差配し、ローテンベルク氏と協働する構図があったとされ、その関係は、まるで一枚のコインの表と裏のように、互いに補完してきたようにみえる。つまり、スタロボイト氏は、プーチン大統領の国家的施策を具体化する「シビルワーク(公共建設工事)」を行政府から推進してきた人物といえる。
二つ目は、クルスク州とウクライナ侵攻である。スタロボイト氏が、クルスク州知事に就任してから3年目の22年2月に全面侵攻は始まった。
同州は欧州向けパイプライン・ガスの中継拠点であるスジャ・ガスステーションやクルスク原子力発電所といった重要インフラを有する。また、ウクライナのスムィ州とも国境を接しており、ロシアにしてみれば西部国境防衛の最重要前線だ。
クルスク州をはじめとする国境地帯の警戒態勢を求めるプーチン大統領の意向を踏まえ、スタロボイト氏は22年10月からウクライナ国境沿いに、ウクライナ軍の戦車や装甲車両の侵入を防ぐための「竜の歯(Dragon’s Teeth)」と呼称される障害物を広範囲にわたり迅速に建設した。これは主に鉄筋コンクリート製のピラミッド型構造で地面に並べて設置されるものだ。こうしたクルスク州での働きが評価され、スタロボイト氏は24年5月の組閣時に運輸大臣に指名された。
越境攻撃で浮かび上がった疑惑
同氏のキャリアが急激に暗転するのは、24年8月から始まったウクライナ軍によるクルスク州越境攻撃である。瞬く間にウクライナ軍は最大で82の集落を掌握し、一時的にクルスク州の約1000平方キロメートル以上の領域を支配下においた。その際、「竜の歯」が全く役に立たなかったことが露見した。
仕様書とは異なる明らかに安価で脆いコンクリートが使用されたことにより、ウクライナ軍が攻め入る前の段階で、雨や風雪により「竜の歯」は大きく損傷していたとされる。独立系オンラインメディアの「Meduza(メドゥーザ)」は、連邦予算からクルスク州の「竜の歯」を含む防衛設備に194億ルーブル(約366億円)が割り当てされたが、このうちの総額約45億ルーブル(約85億円)もの資金が用途不明のままとなっていると指摘している。
こうした背景から、24年11月、クルスク州開発公社の幹部3人、25年4月には、スタロボイト氏後任のクルスク州元知事スミルノフ氏がロシア連邦捜査委員会により逮捕された。スミルノフ氏は取り調べの過程で、スタロボイト氏が知事時代に関与していた契約において、スミルノフ氏自身とその補佐官が「契約毎に10%のキックバック」を受け取っていたと証言した。
