2025年12月5日(金)

プーチンのロシア

2025年7月28日

 タロボイト氏が不備のある防衛設備を容認または黙認していた可能性があると指摘されており、スタロボイト氏の失脚は時間の問題とみられていた。こうした経緯を踏まえると、スタロボイト氏を巡る事案は、報ぜられる汚職事件と深く関係していると推定される。

国民の支持を保つことに躍起

 筆者は、スタボイト氏を巡る事案が伝えられる直前の一週間、モスクワに滞在する機会を得た。爽やかな気候が続く7月初めのモスクワにしては雨がちで肌寒さを感じる程であったが、日本のメディアが、ウクライナによるドローン攻撃を盛んに報道するのとは裏腹にモスクワ市内は平穏そのものであった。

 今回のモスクワ滞在で特に印象に残ったのは、モスクワ市内・周辺の交通インフラの改善である。モスクワ市長のソビャニン氏は、10年の就任以来、交通網整備とそれによる都市再開発を進めており、23年3月に全面的に運開したモスクワ地下鉄の大環状線は全長70キロメートル(環状地下鉄としては世界最長)におよび、市民の足として完全に定着している。

 また、モスクワ金融センター「モスクワ・シティ」の周辺は開発がさらに進み、地上線の「モスクワ中央環状鉄道」と連結され利便性が拡充している。そうした景観からは、西側諸国の軍事支援をうけるウクライナと交戦只中にいる国とは到底思えないところがある。

 モスクワ市・周辺の交通インフラは、モスクワ市交通局が所掌しており、スタボイト氏が推進したものではないが、いずれもプーチン大統領の指揮に基づくものだ。旧ソ連の国家保安委員会(KGB、現ロシア連邦保安庁)の工作員であったプーチン氏は、人心の懐柔や世論操作に長けている。国内治安を保ち、インフラを改善することが、プーチン氏が手動で作り上げた権威主義体制を下支えすることをよく理解している。

 したがい、これだけ西側諸国から経済制裁を科されても、プーチン大統領への支持率は80%(2025年7月時点 レバダセンター調査結果)を下回ることがなく推移している。

 そうした中、ウクライナ軍によるクルスク州への越境攻撃を容易に許し、約13万人のクルスク州住民の避難を余儀なくされた事態は、プーチン大統領にとって大きな失態であったに違いない。そして、その原因の一つが、側近の汚職による防衛設備の不備ということであれば、失態に失態を重ねることにつながりかねない。

 スタボイト氏を巡る事案については、見方によれば、こうしたクレムリンの懸念も浮かび上がってくるといえるのではないだろうか。

※本文内容は筆者の私見に基づくものであり、所属組織の見解を示すものではありません。

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