2025年12月5日(金)

インドから見た世界のリアル

2025年8月4日

 2次制裁とは、ロシア自身ではなく、ロシアからものを輸入している国に対して行う制裁である。さらに、ロシアの応じる姿勢がなくなると、その50日の猶予を短縮して8月8日(50日目ではなく、25日目にあたる)に制裁がかかるように前倒しした。

 そして、ロシアのメドベージェフ前大統領が7月31日にSNSにあげた、核兵器による自動報復システム「デッドハンド」に言及し、アメリカとの全面核戦争ですら怖くないような発言をしたことに対しては、8月2日、原子力潜水艦2隻のロシア近海への派遣を決めることで圧力をかけはじめた。まさに「核の脅し」に「核の脅し」で対抗したのである。

 これはロシアから核兵器の使用を示唆されると、核戦争への懸念だけ表明して何もしなかったバイデン政権とは、明らかに違う政策であった。こうして、トランプ大統領は、「ロシア寄り」という飴カードを放棄し、「予測できない」という鞭カードを最大限利用する方向性へ、舵を切りつつある。

インドに影響する米露関係

 インドから見ると、これは由々しき事態だ。インドは、トランプ大統領の「ロシア寄り」の姿勢に強く期待していた国の一つだ。

 インドは、長期的な関係を重視する。だから、過去、ソ連、ロシアと続いてきた友好関係を前提とすれば、ロシアの行動に多少間違いがあっても、ロシアを裏切ろうとは思わない。

 モディ首相がプーチン大統領に「今は戦争の時代ではない」と伝えたが、それ以上にロシアとの関係を切ろうとはしていないのである。インドは、価格が安くなったロシア産原油などを輸入し、精製してフランスやハンガリーなどに輸出して、ロシアの資金源にもなっている。

 だから、前のバイデン政権時代は、アメリカから、ロシアとの関係を断つよう、頻繁に迫られ、辟易していた。そこにトランプ大統領が現れ、「ロシア寄り」の姿勢を見せた時、米露関係の改善と共に、米印関係も黄金色に見えたのである。

 ところが、今、トランプ大統領は、ロシアに対して非常に強くなっている。8月1日にアメリカがインドからの輸入品に課した25%の関税は、インドがロシアから原油と武器を輸入していることに対する罰だ、とトランプ大統領は明言した。

 さらに、8月8日にかかる可能性があるロシアに対する2次制裁は、ロシアから輸入している国が対象だからインドに対してかかる。トランプ大統領は、「インドがロシアと何をしようが構わない。一緒に死んだ経済にとどめを刺せばいい。私の知ったことではない」とまでSNSに書き込み、成長著しいインド経済を「死んだ経済」とまでいっている。まさに、インドは、ロシアの問題に巻き込まれて、トランプ大統領から脅されているのである。


新着記事

»もっと見る