さらにBRICSもあって、正念場へ
さらに、インドにはもう一つ心配事がでている。トランプ大統領がBRICSについても、攻撃的な姿勢になってきていることだ。
トランプ大統領は、7月8日、ロシアや中国が主導する新興国グループBRICSがドルを基軸とする世界に対抗する目的をもっていることを理由に、「かなり近いうちに」、一律で10%の関税を課すことを発表した。これはインドが最も恐れてきたことだ。
24年のBRICS首脳会談の最後のセッションでインドのモディ首相は、「我々は、この枠組みが既存のグローバルな枠組みにとって代わろうとしているような印象をあたえないよう、慎重でなければならない(We must be careful to ensure that this organization does not acquire the image of one that is trying to replace global institutions)」と述べている。ところが、今回のトランプ大統領のBRICSに対する関税は、その最悪のシナリオそのものである。
つまり、全部集めると、インドが直面している状況は、深刻である。インドの経済はまだまだ自由貿易からほど遠い、複雑で保護貿易的な制度の上に成り立っており、しかも決定や実行に時間が相当かかるインドがもともと持つ欠点があり、そこに米露関係、BRICSなどとの外交姿勢が悪影響を与えている。このままいくと、交渉だけ長引いて、アメリカとの関税がどんどん上がっていくことになる。
たとえかなり高い関税を払っても、アメリカで作るよりはインドで作ったほうが、製品を安く作れることも事実だ。だから、インドとしてはやはり譲歩して、アメリカに輸出したい。そのためには譲歩して交渉をまとめざるを得ない。
どの分野で、どれだけ行うか。8月1日、トランプ大統領は「インドがロシアからの原油輸入を止めると聞いた」と発言している。インドは、アメリカから天然ガス、金、通信機器などの輸入をすることで検討しているともいわれている。
ただ、トランプ大統領が提案したF-35ステルス戦闘機を含め、武器輸入の増加は検討していない、選挙の票田である小規模農家を守るため農作物輸入もしない、ともされる。果たしてそれで交渉はまとまるか。
インドは、ピンチになっても、急がないだろう。インドでは、あわてて急いでも、どうにもならないことが多いので、その点インド人は慣れてしまっている。だから、米印交渉は、しばらく関税がかかり続けるだろう。
一部には、秋が期限の米印2国間の貿易協定交渉の際に関税も一緒に決まるとの見方もあるが、インドの場合、期待しすぎず、うまくいったらいいくらいのほうがいい。いつもの通り、長い旅路になりそうである。
